多くの種類がある「がん保険」。多くの人は、どれを選ぶべきか判断に迷ってしまうのではないでしょうか。正しい知識を持ってがん保険を選ばなければ、せっかく加入していてもいざというときに役に立たないこともあると、株式会社ライフヴィジョン代表取締役のCFP谷藤淳一氏はいいます。では、本当に役に立つがん保険はどのように選べばよいのでしょうか? 本記事では、伊藤さん(仮名・40歳)の事例とともに、正しいがん保険の選び方について解説します。
世帯年収700万円、40歳の妻が「乳がん罹患」で保険に給付金請求も…まさかの「支払い対象外」の悲劇【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

世帯年収700万円、40歳派遣社員の妻が乳がんに罹患

東京都八王子市在住、派遣社員でコールセンターのオペレーターとして働いている40歳女性の伊藤望さん(仮名)。家族は2つ年上の夫と5歳の長男の3人。7年前、3年ほどの交際を経て結婚し、5年前に長男が誕生。近い将来一戸建てのマイホーム購入の希望もあり、第2子については欲しいと思うものの、経済的なことから難しいかと夫婦で話しています。

 

夫は中小の印刷会社で働き年収は約450万円、伊藤さんの年収は250万円ほど、貯蓄は約500万円。先々の住宅購入の頭金としてコツコツ貯めてきました。

 

子供の習い事などの出費も出てきて決して家計は楽ではないですが、夫婦で家事や子育てを協力して行いながら、週末には家族3人でキャンプなどアウトドアを楽しみ、幸せな生活を送っていました。

 

衝撃のがん宣告

2ヵ月前、会社の定期健康診断時に合わせて受けた乳がん検診で要精密検査の結果が。2週間前にその精密検査の結果を聞きに行ったところ、伊藤さんに乳がんが発覚してしまいました。

 

「私はもうおしまいなの?」「息子はどうなってしまうの……」「長期入院で仕事ができずお金が……」と、まさかのがんの告知にひどく動揺するなか、主治医からの説明が続きます。

 

どうやら伊藤さんの乳がんは乳房だけでなくすでに肺などへの遠隔転移が確認されるため、手術ではなく抗がん剤治療という薬での治療になるということ。伊藤さんは以前からがんになると長期入院になると思い込んでいたため、それによる子供や家事のこと、そして仕事への影響が気がかりになり、

 

「入院は何ヵ月くらいになりそうですか?」と主治医に尋ねました。

 

すると主治医からの回答は「抗がん剤治療は通院で行えるので入院の必要はありません。今後はだいたい3週間に1度、通院してもらうことになります」という意外なもの。

 

昔よりも薬がよくなり、種類も増えたので、生存率も高くなっているとのことで、主治医からも「一緒に頑張りましょう」と励ましの言葉があり、少しだけ事態を受け止められるようになりました。

 

薬の副作用には個人差があるようですが、体調に問題がなければ仕事に行くことは問題ないということで、すぐに仕事を辞めて、収入を失わなくてもよいことがわかり、その点も少し安心しました。

 

治療開始…給付金を受け取れるはずが「まさかの事態」に

そして本日、初めての抗がん剤治療の日。初回ということで不安もあり、夫が仕事を休んで一緒に来てくれました。13時過ぎに主治医の診察を受け、抗がん剤治療を行い15時半過ぎに会計へ。本当に数時間の通院でがん治療ができてしまったことに伊藤さん夫妻は改めて驚きました。

 

今回支払った金額は約4万円。いままでがんになってしまうと、3ヵ月や半年の長期入院をして、費用は100万円、300万円といった大金をいきなり請求されるという印象を持っていた伊藤さん。予想外の金額にホッとしました。

 

ただ主治医からは、薬の治療は効果や体調を見ながらも、基本的には長期間、場合によって年単位で行っていく可能性があるという説明を受けました。1度当たりはそこまで高額でなくても、毎月数万円が長期で掛かり続けることは、伊藤さんの家計的には決して小さい負担ではありません。また薬の副作用が強くなった場合には、仕事を休みその月の収入が減る可能性があります。

 

息子の習い事は続けさせてあげたいし、住宅購入費用も貯めていきたい。治療が無事終了したら、今度は将来へ向けての経済的な不安が沸いてきました。ただひとつの救いとして約5年前に加入した保険の存在を思い出し、「こんなときのために夫婦でがんに手厚い医療保険に入っておいてよかった!」と、伊藤さん夫妻は病院のロビーで領収書を見ながら話しました。

 

自宅に戻りさっそく保険の請求をしようと、保険会社のコールセンターへ電話した伊藤さん。そこで対応してくれたオペレーターからまさかの回答が……。

 

「伊藤様のご契約ですと、今回のがんの治療はお支払いの対象外になります」