超高層マンション(タワーマンション)の法律上の定義はないが、一般的には高さ60メートル以上、概ね20階以上のマンションを指し、大規模修繕費用は高額となる。ニッセイ基礎研究所の渡邊 布味子氏が、その理由を考察していく。
マンションと大規模修繕…超高層マンション(タワーマンション)の大規模修繕 (写真はイメージです/PIXTA)

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超高層マンションとその他のマンションの大規模修繕工事の違い

超高層マンション(タワーマンション)の法律上の定義はないが、一般的には高さ60メートル以上、概ね20階以上のマンションを指す。国土交通省が2021年7月から10月に行った「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」のなかで、工事の施工事業者に「超高層マンション特有の大規模修繕工事のうち難しい工事は何か」を聞いたところ、そもそも「施工計画全般が難しい」との回答が52.5%あった。具体的な工事内容では、仮設工事が62.5%、外壁塗装が55.0%、外壁タイルが50.0%の順で難しいとの回答が多かった(図表1)

 

【図表1】
【図表1】

 

また「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」では、修繕工事費を押し上げる主な変動要因として、「建物が複雑な形状のマンション」、「超高層マンション」、「エレベーターや機械式駐車場がある」、「共用部に空調機が設置された内廊下、ラウンジ、ゲストルームなどがある」、「塩害を受ける海岸に近いマンション」などがあげられている。こうした特徴は超高層マンションにあてはまることが多く、超高層マンションの大規模修繕費用が高額となる原因であることが指摘されている。以下では、超高層マンションの大規模修繕費用が高い原因となりやすい(1)仮設工事、(2)外壁塗装・外壁タイル補修工事、(3)エレベーター取替工事の3つについて述べ、超高層マンションの大規模修繕にどのように対応すべきかを考える。

 

大規模修繕費用が高くなる原因(1):仮設工事

費用が高くなる原因の1つ目は、仮設工事である。仮設工事とは、目的の構造物を建設するために必要となる一時的な施設や設備(足場・防護柵・電力・水・トイレ等の仮設設備など)の設置と除去に関する工事をいう。国土交通省が行った「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、工事費全体に占める仮設工事費の割合は、超高層以外のマンションの場合が21.9%であるに対し、超高層マンションは29.0%と大きい(図表2)

 

【図表2】
【図表2】

 

超高層マンションの仮設工事費が高くなる原因は「足場」である。マンションの大規模修繕工事で用いられる主な足場には、「枠組足場」、「ゴンドラ」、「移動昇降式足場」がある。「枠組足場」とは、地上から鋼材などを組み立てて建物の外部に足場を設置する方法(写真1)、「ゴンドラ足場」とは必要な工事箇所に屋上からゴンドラを吊るす方法(写真2)、「移動昇降式足場」とは必要な工事箇所の外壁にレールを設置して昇降式の足場を設ける方法である(写真3)。このうち「枠組足場」が最も安価であるが、安全性確保のため60メートル程度までが組み立て可能な高さの上限となる。

 

超高層マンション以外のマンション(以下、一般的なマンション)では、工事に必要な仮設の足場は、「枠組足場」で組むことができることが多い。一方、超高層マンションは、工事に必要な足場の全部または多くの部分に「ゴンドラ」または「移動式昇降足場」を用いる必要がある。階段状などのデザイン、建物の横断面の形、ベランダの形状などによっても組める足場は異なり、超高層マンションの仮設工事はそのマンションにカスタマイズされたものになることが多く、仮設工事費用は高くなりがちである。また、複合用途で低層階に商業施設がある場合などは、足場の設置に大きな制約が生じる場合がある。

 

【写真1】~【写真3】
【写真1】~【写真3】