手話が取り上げられたテレビドラマが増え、世間的にも注目度が高まっている「手話通訳」。その一方、専門性は認められていても専門職としては扱われない……。本記事では、横山典子氏の論文「今の手話通訳者を専門職として位置づけるには」より一部抜粋・編集し、手話通訳者の労働環境・労働条件について考えていきます。
「高給取りと誤解されることもあるが、劣悪な待遇」…「手話通訳者」の知られざる労働環境 (※写真はイメージです/PIXTA)

高給取りと“間違えられる”場合も…知られざる実態

しかし、手話通訳者の待遇が保障されていないことは、聴覚障害者のコミュニケーションが保障されていないことと同義である。障害当事者の経済的負担を軽減する施策は必要だが、その障害当事者を支援する人材の待遇が悪ければ、障害当事者の生存権を守れないことになり、本末転倒である。

 

これでは、日本国憲法第25条第1項に掲げられている、「健康で文化的な最低限度の生活」には程遠い。

 

最近は手話通訳者の高齢化が進んでいて、他の仕事なら引退していてもおかしくない年齢の手話通訳者が、懸命に手話通訳制度を支えている。現状のまま、次の世代にバトンを渡してはいけないと考えているからであろう。

 

現状のままが続けば、手話通訳者や手話通訳者を目指そうとする人が減って、手話通訳制度が先細りし、聴覚障害者が利用したい時に利用できなくなる心配をしなければならない。

 

情報・コミュニケーション法や手話言語法が施行されれば、学校で手話の授業が実施されて、国民皆が手話で話せるようになり、手話通訳という仕事が不要となる日が来るかもしれないが、それがいつになるのかは、現時点では想像もつかない。

 

なら、その日が来るまでは、手話通訳という仕事を、是非とも存続させなければならない。

 

介護スタッフや保育士の劣悪な労働環境・労働条件については、マスコミの報道等で広く知られるようになり、徐々に改善が見られる様子だが、手話通訳者については、逆に高給取りと間違えられる場合もあり、実態がよく知られていないため、なかなか改善には至っていない。

 

 

横山 典子