国内の大手証券会社に勤務するA氏。「華やかなタワマン暮らし」にあこがれを抱き、38歳のときに1億2,000万円の湾岸エリアのタワマンを1室を購入しました。「退職後は悠々自適なリタイヤ生活を送りたい」と話すA氏ですが、はたしてうまくいくのでしょうか……。見栄っ張りでプライドの高いエリート会社員A氏の事例をもとに、FP事務所ストラット代表の伊豫田誠氏が解説します。
38歳で手取り月53万円のエリート会社員「全額ローン」でタワマン購入…見栄とプライドが招く「老後の悲劇」【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

A氏が語る「理想の老後」は“絶望的”

タワマンを購入したことでA家の家計は火の車ですが、A氏の希望は「65歳で退職したのち、悠々自適なリタイヤ生活を送ることだ」といいます。

 

しかし、A氏が65歳の時点で、住宅ローンの返済は8年間、約2,900万円の返済が残っています。この8年分の住宅ローンと生活費を、年金だけでまかなうのは困難でしょう。したがって、A氏はこの時点で「残債を一括返済してしまえばよい」と考えていました。

 

A氏の考えはこうです。「65歳時点で貯まっているであろう保険貯蓄が約1,500万円と、もらえるであろう退職金が約1,500万円ある。住宅ローンの残債2,900万円をこれらを使って一括返済しても、手元に100万円が残る。

 

さらに、仮に毎年50万円の黒字を27年間維持できていれば、現金でも1,350万円の貯金ができるはずだから、100万円と合わせて、老後資金は1,450万円準備できている計算だ」

 

……しかし、当然ですが、退職金が満額入るかは不透明ですし、1,450万円も老後資金としては足りないことが予想されます。

 

A氏は、こんなぼんやりとした予測でタワマンの購入に踏み切ったそうですが、最悪の場合、貯金がまったくできずに老後資金が500万円未満なんてことになれば、悠々自適な老後生活は夢物語に終わります。

 

さらに、住宅ローンが返済できても、管理費と修繕積立金の支払いは続きますし、年々その額も上がっていきます。実際にどれくらい上がるのかは、マンションによって差が大きく一概にはいえませんが、近年のペースで物価が上昇すれば、当然に維持管理コストも上昇するでしょう。65歳時点で1.8倍近くに、さらに80歳時点では2倍近くになっている可能性もあります。

 

【予想される管理費と修繕積立金の値上がり】

購入時       65歳    80歳
管理費:2.2万円 ⇒ 4万円 ⇒ 4.4万円
修繕積立金:0.9万円 ⇒ 1.6万円 ⇒ 1.8万円
合計:3.1万円 ⇒ 5.6万円 ⇒ 6.2万円

 

資金面の他にも、高齢者のマンション暮らしには防災や防犯面でのリスクがあります。マンションは耐震性能や耐火性が高いですが、災害によっては避難が必要になり、エレベーターが止まってしまうと高齢者の避難は困難を極めます。

 

また、マンションは人との交流があまりない場合が多く、高齢になると友人や家族との接触も減少し、いざというときに近くに頼れる知人がおらず避難に遅れが出ることも考えられます。

リスクを少しでも回避…老後資金を「不動産投資」で運用すると

A氏の場合、一括返済はリスクが大きいと考えます。したがって、仮にA氏のケースで、65歳で一括返済は行わず、不動産投資で運用した場合を考えてみましょう(ここでは、簡易的に計算します)。

 

保険貯蓄約1,500万円、退職金約1,500万円、余剰貯金1,350万円、合計4,350万円で、利回り8%の不動産を購入すると年間348万円(29万円/月)の家賃収入になります。

 

実際には、実質利回りは1~2割ほど落ちる可能性はありますが、65歳から家賃収入と年金で生活できれば、住宅ローンが終わる8年後の73歳からは、毎月29万円の家賃収入と年金で暮らすことができ、一括返済をするよりも豊かな暮らしができるかもしれません。

 

いつの時代も、マイホームの購入には資金面だけでは決められない思いや考えがありますが、末永く愛着を持って住んでいける選択ができることを願っています。

 

 

伊豫田 誠

FP事務所ストラット

代表/不動産投資専門ファイナンシャルプランナー