住宅ローンは返済したが…今後のKさんの生活をFPに相談
問題はこれから先、妻Kさんは生活していけるのでしょうか。そこで弊社に相談を依頼し、今後のキャッシュフローを精査することにしました。住宅ローンを完済後、妻Kさんのお金は次のようになります。
死亡保険金の残り 800万円
死亡退職金 500万円
遺族年金 月13万円
パート収入 月7万円
預貯金は2,300万円、毎月の収入は7万円、そのほかに遺族年金がありますが娘2人が18歳の年度末を迎えるごとに金額が少なくなっていきます。一見すると預貯金が潤沢にあり申し分ないようにみえますが、物価が高騰する現在、毎月の生活はギリギリです。夫が生きていたころよりも生活レベルを落とすことになります。娘さん2人の教育費として預貯金2,300万円では、オール国公立の進路でも不足します。中学から私立の進学はいまのままでは無理でしょう。
これから自宅のメンテナンスにもお金がかかります。娘さんの送り迎えのためにまだ車が必要なので、買い替えしていく費用も欠かせません。今後は娘さん2人のためにも妻Kさんがまとまった死亡保険に加入する必要もあります。こう計算していくと確実に生活費が不足していくことがわかりました。
「もし……無理に家を買っていなかったら、賃貸住まいだったら、死亡保険金が手元に残っていたということですよね……」
妻Kさんが涙ながらにそう言いました。
預貯金を投資に回してはどうかと妻Kさんは考えましたが、FPとして反対しました。元本欠損のリスクを許容できるほどの余裕が家計にありません。 妻Kさんが自分の収入を上げるために就職活動を考えたものの、キャリアのないKさんがすぐにフルタイムの職を得ることは難しいかもしれません。
考えた末に、自宅を売却し親子で実家に帰ることになりました。売却したところで3,000万円程度にしかならないものの、教育費だけは確保できます。自宅の維持費がない分、支出が減ります。実家の援助を受けながらしばらく生活していけば困窮に陥ることもないでしょう。もちろん両親と娘さん2人に対する死亡保険に妻Kさんが加入することを忘れてはいけない部分です。
「せっかく夫が残してくれた家を売ってしまうのですね」と妻Kさんはしばらく落ち込んでしまいました。家を買う前に、ライフプランのアドバイスをしてくれるFPなどに緻密な計算をしてもらうべきだったかもしれません。
一応、住宅メーカーから紹介されたFPに相談したということですが、どうやら保険営業マンだったらしく夫Rさんの健康状態では保険に加入できないとわかってからは、緻密なリスク対策をする熱心さはなかったようです。(その知識があったかも不明ですが) 「家を買ってもいいと思います」と、そうアドバイスしたといいます。知識のあるFPであれば、「その前提条件では家を買ってはいけない」と判断するはずだった状況です。賃貸暮らしを選択し、将来実家を相続して住むべき、とアドバイスすべきでした。
その銀行は「期限の利益」が債務者死亡によって喪失する取引規定なのかどうかは一般の消費者ではわかりません。団信で保障されることが一般的なので、銀行員も妻Kさんがこのような状況に陥るとは想像できなかったでしょう。むろん、銀行は債務者の家計の詳細など知る由もありません。
自分の取引規定を確認してみる
期限の利益を喪失する事由から「相続が発生したとき」を削除する金融機関が増えています。前述の夫Rさんが借りた地方銀行も2022年6月に規定を改定しています。改定した場合は債務者にその旨を通知されるので、もしかしたらお手元に通知が届いている方もいるかもしれません。
金融庁の要請は、あくまでも要請なので取引規定をまだ改定していないケースもありえます。 住宅ローンを団信なしで借りている場合、カードローンや自動車ローンを借りている場合、ご自身の取引規定を再確認してみてください。状況によっては死亡保険の再確認も同時に行うべきなのはいうまでもありません。
長岡 理知
長岡FP事務所
代表