住宅ローン5,500万円を残して夫に先立たれてしまった妻Kさん。通常、債務者が死亡した場合は、団体信用生命保険によって残りの債務は免除されます。しかしKさんは、夫が死亡したにもかかわらず、住宅ローンの一括返済を求められてしまいました。なぜなのでしょうか? 長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
年収900万円・35歳の夫、脳卒中による急逝…32歳妻への「住宅ローン5,500万円」一括返済要求の悲劇【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

本来であれば団体信用生命保険で返済されるが…

あれ? と思った方も多いと思います。

 

「債務者が死亡したら団体信用生命保険で債務は返済されるのでは?」

 

そのとおりです。債務者が死亡したり高度障害状態になったりしたときには団体信用生命保険(以下、団信)によって、残りの債務は免除されるのが一般的です。住宅ローンを借りるときには団信に必ず加入することになっているため、団信に加入できるような健康状態でなければ住宅ローンを借りることができません。健康でなければ住宅ローンを借りられないというのは、こういう意味です。

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
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ところが一部の銀行では団信に加入しなくても住宅ローンを融資する取り扱いをしているケースがあります。その際、債務者が生命保険会社で住宅ローンの融資額以上の死亡保険に加入していることが条件です。「自分で加入している生命保険から残債を一括で返済するなら住宅ローンを融資します」ということです。

 

そのため、前述のような取引規定(6)があるのです。債務者の死亡によって期限の利益は喪失するが、生命保険を使って一括返済することが求められます。

 

消費者団体はこの規定を問題視

(※画像はイメージです/PIXTA)
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消費者団体はこの(6)の規定を問題視しています。住宅ローンであれば金額が大きいため生命保険の加入を条件としていますが、フリーローンなど少額の融資であれば生命保険の確認はありません。遺族が必ずしも一括で返済できるわけではないため、最悪のケースでは遺族が自己破産することもありえます。

 

消費者団体の消費者機構日本(内閣総理大臣の認定を受けた適格消費者団体)が個別の金融機関に「相続の開始を持って期限の利益を失う」という部分の差止め請求を行っていることを受け、金融庁が預金取扱い金融機関に要請を行ったという経緯です。

 

あくまで要請であるため、それぞれの金融機関が規定の改定に応じるかどうかは未定です。 この期限の利益を喪失することで遺族がどのような状態になるか、ある事例をみていきましょう。