自身の老後、残り3人の孫…Aさんに襲い掛かる「お金の不安」
このころから、Aさんは自分の足腰が弱っていることに気づき、有料老人ホームへの入所を検討し始めました。友人たちに聞くと、入居一時金に1,500万円もかかったところもあるといいます。
「自分の老後も心配なのに、孫の教育資金ばかり気にかけていていいのだろうか……」モヤモヤし始めたAさんでしたが、「心配していても仕方がないから」と割り切って、それから数ヵ月の時が経ちました。
「ねえママ、お兄ちゃんと一緒の塾に行きたい!」
ある日、Aさんが長女一家と食卓を囲んでいると、小学4年生になった孫Bの妹が目を輝かせながらこう言いました。「私もお兄ちゃんのような中学校に行きたい! 友達もお兄ちゃんと同じ塾に行ってるし、私もそこがいい! ねえ、ママいいでしょ!?」実は家計が厳しい長女一家や、老後の資金に不安を抱きはじめたAさんの事情などわかるはずもなく、妹はただ「お兄ちゃんのようになりたい!」という純粋な気持ち一心です。
一方長女も、Aさんのお財布には「まだまだ余裕があるもの」と勘違いをしています。Aさんは後日、長女からさらなる教育資金援助の相談をされ、ますます不安が膨らむのでした。「1,000万円の教育資金を提供したがために、自分の老後が立ち行かなくなるのではないか。それに、まだ3人も孫がいるというのに……」
Aさんに欠けていた「ライフプランニング」
この場合、Aさんはどうすればよかったのでしょうか?
筆者が思うに、まずはAさんご自身がこれからどういう風に生き、なにをしたいのかという人生設計に沿った予算を「見える化」し、ご自身が「使う資金」と「使わなくてもいい資金」の範囲を明らかにする必要がありました。この一連の計画を、「ライフプランニング」と呼びます。
「ライフプランニング」をしたうえで、4人の孫それぞれに大学卒業までの学費をトータルでいくら支援できるのか予算をしっかり組み、長女や長男に伝える必要があります。優しいAさんは、長女や孫が困ったときはついつい「いい顔をしたい」というプライドがあったのでしょう。いつしか長女には、「困ったときはお父さんのお財布を頼ればいい」という甘えや癖がついてしまっていたようです。
Aさんが「子どもや孫の喜びのために資金援助をしたい」という気持ちはなんら悪いことではありません。しかし、実際に援助するのであれば、そのお金がなんの目的で、いつまでの期間におよぶのかはっきりさせておくべきです。
せっかくの気持ちをむげにしないためにも、子や孫はもとよりご自身が困らないような支援の有り方や前提は整えてから支援に乗り出すことが必要といえます。
金融機関などからの「節税になるからOOをするといい」という話は一見魅力的な話に思えますが、それをする前に自身の人生の全体像を検討する必要があるのではないでしょうか。
森 拓哉
株式会社アイポス 繋ぐ相続サロン
代表取締役