復職できなければ老齢年金に「年額50万円以上」の差
筆者は、老後までの家計状況がわかりやすいように、夫妻にはキャッシュフロー表と年金シミュレーションを使って、これからのお金の流れを説明していきました。
作成したキャッシュフロー表をみると、AさんとBさんの年収はそれほど差がなく、仕事を退職されたあとは家計収入がほぼ半分になるほか、まだまだお子さんにもお金がかかってくるご家庭のため、老後の家計はかなり厳しいものになることがわかりました。
年金についても同様です。Bさんが働き続けたと仮定した場合、年金額(年額)はAさんが約190万円で、Bさんは約170万円となりますが、Bさんがこのまま収入がない状況が続くと、Bさんの年金額は約117万円と、年額で50万円以上も減ってしまうことになります※。
※ 「ねんきん定期便」を参考に筆者独自に試算
さらに、このままBさんが働けない場合、Aさんが70歳時点での貯蓄残高は、なんと5,000万円近くも差が生じてしまうことがわかりました。
Aさんは絶望しました。Bさんもショックを受けてしまい、「肉体的にも精神的にも追い詰められて仕事を辞めてしまいましたが、本当は好きな仕事です。機会があったら、また始めようかと思います」と口にしました。
ただし、「看護師」のような資格の強みは将来の生活を守ってくれます。インフレに転じてしまった日本では、可能であれば働き続けることが非常に重要になってきました。特に女性が高収入であれば、老後1人暮らしになった際に大きな安心につながります。
皆さんも生涯のジョブプラン(働き方計画)について、一度考えてみてはいかがでしょうか。
終わりの見えない介護生活は「制度を頼って自分を守る」
Bさんのように、責任感の強い人ほど自分ひとりでなんでも抱えてしまいがちです。幸い、認知症の母親は亡くなられた夫から相続された財産もあり、資金面でも困ることはありませんでしたので、今後は施設への入居を検討することもおすすめしました。
筆者も母親の介護を10年以上してきましたのでわかりますが、介護は終わりが見えないので、本当に辛いものです。仕事にも影響が出ますし、自分の時間もとりにくくなりますので、金銭的にも精神的にも大変な状況が続きます。
Bさん夫妻の年代であれば介護の対象は「親」であることが多いですが、さらに年をとると「配偶者の介護」も見えてきます。家庭のなかだけですべて抱え込もうとせず、行政に相談して、受けられるサービス等を確認するようにしましょう。
2021年に厚生労働省が発表した「雇用動向調査」によると、介護や看護により離職される方は約9.5万人もいます。しかし、一度仕事を離れてしまうと、収入ダウンはもちろん、将来の年金にも影響しますし、自分の老後が脅かされる状況に陥ります。
仕事復帰したとしても以前のような年収に戻ることは難しいですし、いまの時代復職後に正社員になるというのも簡単ではありません。簡単に仕事を辞めてしまうのではなく、「介護休暇・介護休業」といった仕組みも利用して※、仕事を続けることを模索することをおすすめします。
川淵 ゆかり
川淵ゆかり事務所
代表