「暦年贈与」と「生前贈与加算」の制度とは
「暦年贈与」とは、贈与税において「暦年課税」を選んだ場合に年間110万円まで非課税となることを指します。
「暦年課税」は、贈与税の2種類ある課税方法の一つです。毎年、その年度に贈与された財産の合計額に応じて課税される方式です。もう一つの方法が、後述する「相続時精算課税」です。
暦年課税においては、年間110万円まで「基礎控除」を受けられ、非課税となります。
ただし、後に贈与者が亡くなって相続税を計算する際、「相続開始前3年間」すなわち死亡日以前3年間に贈与した財産について、相続財産への「持ち戻し」が行われることになっています。これが、いわゆる「生前贈与加算」です。
贈与財産が年110万円以下であっても、相続財産への持ち戻しが行われるのです。
この「生前贈与加算」は難点ではありますが、暦年贈与を程度長期間にわたって続ければ、確実性の高い相続税対策となります。したがって、これまで、この暦年贈与が相続対策のスタンダードの地位を占めてきました。
生前贈与加算が「3年」から「7年」に延長
ところが、2022年12月23日に発表された政府の「令和5年度税制改正大綱」において、「持ち戻し」が2024年度の贈与から従来の「相続開始前3年分」から「7年分」まで延長されることとなりました。
持ち戻しの額は以下の通りです。
・亡くなった日の3年前まで:全額持ち戻し(従来と同じ)
・それ以前(7年前まで):総額から100万円を控除した額を持ち戻し
これにより、暦年贈与による相続税対策も、少なくとも8年以上続けなければ効果が乏しいこととなります。
背景に「資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築」
この制度改定の背景にあるのは、「資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築」あるいは「相続税と贈与税の一体化」という問題意識です。
すなわち、政府の税制改正大綱の下敷きとなった与党(自民党・公明党)の「2023年度税制改正大綱」において、以下の指摘がなされていました。
1. 高齢化に伴い、資産が高齢世代に偏っているため、若年世代への資産移転を促す必要がある
2. 現行制度においては富裕層でない人にとって生前贈与を行うメリットが乏しい
3. 現行制度における生前贈与の非課税措置(暦年贈与等)はもっぱら富裕層に有利なものとなっており、格差の固定化につながる。
これらの問題意識から、「資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築」がうたわれました。
すなわち、生前に「贈与」した場合と、死後に「相続」によって資産が移転した場合とで、最終的な税負担に顕著な差がないような制度設計をするということです。
「相続税と贈与税の一体化」という表現がされることがあります。
「生前贈与加算」が7年に延長されたのは、その一環です。