光熱費や物価の上昇により、多くの家計を圧迫しています。特に、年金収入で生活を送る高齢者は非常に深刻な状況となっているようです。本記事では、年金生活の70歳単身男性の事例とともに、FP事務所MoneySmith代表の吉野裕一氏が、単身高齢者の貧困リスクについて解説します。
「年金月13万円」70歳単身男性…相次ぐ物価高で収支は赤字に「早く亡き妻に会いたい」【FPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

資源高、円安によって生活が困窮

すでに年金を受給している70歳の山本拓郎さん(仮名)は、妻の保子さん(仮名)を2年前に亡くして単身で生活しています。2人は長年連れ添った大変仲のいい夫婦だったため、妻を亡くしたこの2年間は拓郎さんにとって大変辛い時間でした。

 

そんな悲しみに追い打ちをかけるような昨今の光熱費の上昇や円安による物価高。これにより生活費が上昇してしまいました。住まいは持ち家でしたので住居費はそれほど必要なく、これまで13万円の年金収入でぎりぎり生活を送ることができていましたが、この物価高により、毎月の収支がついに赤字となるようになりました。

 

遠方に息子の剛さん(仮名)がいますが、剛さんにも家庭があり、剛さんの子どもも大学生と高校生でお金が必要ということを知っていたので、「子どもには迷惑をかけたくない」と生活が厳しいことを伝えずにいました。

 

ところが、毎月のように上がる光熱費や物価で僅かな貯蓄も底をつきそうになり、もう限界のところまで来ています。今後の生活をどうすれば、もう生きていけないかもしれない……と本当に困っている様子でした。終いには「早く亡き妻に会いたい」とまでポツリ。

 

実際に総務省の家計調査によると2021年10~12月期の65歳以上の消費支出は155,025円でしたが、2022年10~12月期には、172,555円と10%以上増えています。なかでも電気料金は約27%も上昇しています。

生活保護を受ける人のうちの「5割以上」が高齢者

厚生労働省が令和4年に公表した「生活保護制度の現状」では、生活保護世帯は増加傾向にあり、令和4年3月には164万2,821世帯となっています。特に65歳以上の高齢世帯の増加は大きく、平成10年には29.5万世帯でしたが、令和4年3月には91.3万世帯と3倍以上に増加しています。そのなかで単身世帯は、実に92.3%と非常に多くなっています。

 

令和4年3月の「生活保護の被保護者調査」(厚生労働省)によると、生活保護を受ける人のうち65歳以上の高齢者の割合は半数を超えています。そのうち約9割(月平均84万2820世帯)が1人暮らし世帯となっており、10年前の2012年3月(66万723世帯)に比べると1.27倍になっているのです。

 

生活を圧迫する昨今の物価上昇の背景

保子さんが亡くなる前は夫婦2人の年金で20万円程度あったので、生活にも多少のゆとりがありました。保子さんが亡くなってからは、拓郎さんは生活保護を受けるまでではありませんでした。しかし、独り身になったとはいえ生活にゆとりがあるとはいえない状況です。そんななかで、昨年から始まったロシアのウクライナ侵攻による原油高でガソリン代だけではなく、電気代など光熱費、さらには生活に欠かせないものの物価も上昇してきました。

 

また、新型コロナウイルスにより世界的な金融緩和が行われ、市場にお金が溢れるようになりました。お金が市場に溢れることは一見いいようにも思えますが、これは物価上昇の要因にもなります。

 

2022年には、新型コロナウイルスに対する行動制限なども少しずつ緩和され、アメリカでは経済の正常化へ向け、金融緩和から金融の引き締めへと方向転換が始まりました。このことで、市場に溢れていたお金を引き上げるため、アメリカの中央銀行にあたる米連邦準備理事会(FRB)がFF金利の引き上げを始めました。このアメリカの利上げがさらに生活を苦しめる結果となりました。日本では金融緩和は継続され、政策金利もゼロ金利が維持されています。利率のよいアメリカへお金が集中することによって、為替相場が大きく円安に進んでしまったのです。

 

多くのものを輸入に頼っている日本では、円安になると原材料費などが高くなり、物価の全般が値上がりするようになります。