高い学歴があり大手企業に内定し、40歳で月収83万円となり、会社でも挫折することなく定年まで勤め上げ……いわゆる「勝ち組人生」を歩んできたSさん。しかしそんなSさんは老後への思慮が欠けており、想定していたよりも老齢年金の受給額や貯蓄額などの老後資金が足りず、気付けば老後破産の一途を辿ることになっていました。本記事ではSさんの事例とともに、FP事務所MoneySmith代表の吉野裕一氏が、理想の老後生活を送るためのライフプランについて解説します。
月収83万円だった元・エリート、「勝ち組人生」しか知らなかったが…65歳で「老後破産街道」まっしぐらの“トホホな転落劇”【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

現役時代はエリートで生活レベルが高かったSさん

有名国立大学を優秀な成績で卒業後、大手企業に就職し、順調に仕事を熟していたSさん。20~30代のころは仕事を優先し、40歳で結婚。1年後には長男が、3年後には長女が生まれ、仕事もプライベートも順風満帆でした。

 

子供も大きくなってきたので、45歳のときにマイホームを6,000万円で購入。1,000万円の頭金を入れ、5,000万円の住宅ローンを金利1.5%、35年で組んで、毎月約15万円払っていくことになりました。

 

このころには、年収が1,000万円あり、生活にもゆとりがありました。Sさんは自分の親にしてもらったように、子供にもやりたいことをやらせてやりたいと、習い事や学習塾に通わせて中学受験も考えていました。2歳年下の妻は、Sさんの収入も多かったので働きには出ずに、子供の世話に専念していました。現役時代はエリートとして収入も多く、生活費が高めでしたが余裕がありました。

 

そんな生活が当たり前となっていたSさんは、貯蓄に回すお金は後回しに考えていたため、退職時には貯蓄が1,000万円程度でした。また、投資などリスクのあるものに対して悪いイメージがあったため、すべて貯金にしていました。65歳の定年退職時に、退職金は2,000万円あり、現在の貯蓄と合わせると3,000万円となりました。

 

以前、世間で話題となった老後2,000万円問題についても耳に入っていましたが、自分は3,000万円あるから大丈夫だろうと高を括っていました。ただ、退職時には長男が大学を卒業していましたが、長女がまだ大学に通っているので、教育費は必要でした。

公的年金の少なさに愕然…貯蓄を切り崩すことに

年収が1,000万円あったので、年金もそれなりにあると思っていたSさんでしたが、65歳から年金を受け取り始め、驚きを隠せません。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

厚生年金は等級によって年金額が計算されますが、上限は65万円となっています。Sさんは年収が1,000万円あったので、月額にすると約83万3,333円となりますが、老齢厚生年金の計算には、この約83万円ではなく、上限の65万円で受給額が計算されることになります。

 

Sさんの老齢厚生年金の受給年額は、65万×5.481÷1,000×504か月=1,795,576円となり、月額14万9,631円を毎月受け取ります。国民年金は20歳から40歳まで満額払っていたので、令和4年度の満額77万7,800円、月額6万4,817円となり、老齢厚生年金と老齢基礎年金を合わせて月額214,448円を受け取れることになります。

 

現役時代には年収1,000万円、月の手取りで60万円はあったので、生活は我慢することなくゆとりある生活を送ってきました。しかし、住宅ローンは80歳まであり、この住宅ローンの支払いだけでも15万円あるので、どうやって生活していこうかと頭を抱えました。

 

また長女は自宅ではなく、アパートを借りて1人暮らしをしていたので、仕送りや学費などで月13万円程度が必要でした。現役時代には節約を考えたこともなく、月に30万円以上を使っていたSさんは、夫婦2人となって月に20万円程度の支出にはなっていますが、なかなか生活水準を落とすことができずにいました。

 

総務省が調査をしている「家計調査(家計収支編)」の年間収入階級別の消費支出を見ても、年収が900万円~1,000万円の勤労世帯では、消費支出が約39万円、年収1,000万円~1,250万円では約43万円と支出が多くなっています。

 

貯蓄が3,000万円ありましたが、これでは毎月50万円近くの支出があるので、約30万円の赤字となり貯蓄を取り崩さなくてはなりません。とはいっても、子どもの教育費もあと少しの辛抱と考えてしまっていました。Sさんの危機感の薄さでは、このままいくと老後破産も確実でしょう。