年金受給額を「月3万円」増やす2つの方法
さて、年金の計算式がわかったところで、年金受給額を増やす方法をみていこう。Aさんの場合、考えられる方法は「年金加入期間を延ばす」「年金を繰下げ受給する」の2つだ。
1.年金加入期間を延ばす
まず考えられるのは、勤務期間を延長するなどして、「年金加入期間を延ばす」という方法だ。61歳以降も厚生年金被保険者として雇用される場合、年収と勤務期間に応じて老齢厚生年金を増やすことができる。
前述した老齢厚生年金の計算式をもとにすると、Aさんは再雇用時の年収が450万円であるため、1年勤務すると老齢厚生年金額が年間2万4,600円増える(450万円×5.481÷1,000×1年。100円未満切捨て)。仮に5年間勤務期間を延長した場合は、年12万3,000円(月1万250円)年金が増えることになる。
Aさんは定年である60歳から65歳まで5年間の勤務延長であるため月1万250円年金が増えることになるが、これでは目標金額である月3万円に2万円分足りない。そこで、2つ目の「年金繰下げ受給」を考えたい。
2.年金の繰下げ受給
年金の繰下げ受給とは、65歳から受け取ることができる年金をそのときに受給せず、1ヵ月単位で繰下げることで、1ヵ月あたり0.7%(年間8.4%)増額することができるしくみだ。これは、老齢基礎年金額と老齢厚生年金額をもとに計算される。
Aさんの場合は、65歳からの受給額が老齢基礎年金額77万7,800円、老齢厚生年金額109万7,200円(5年再雇用をした場合)となる。そこで、老齢基礎年金・老齢厚生年金ともに1年間繰下げると、それぞれ84万3,135円、118万9,365円となり、合計203万2,500円(月16万9,375円)。65歳時点での受給額より、年間15万7,500円(月1万3,125円)増えたことになる。
では、月3万円増やすためにはいつまで繰下げる必要があるかというと、Aさんの場合19ヵ月(1年7ヵ月)の繰下げが目安だ。19ヵ月繰下げたことによる増額率は、13.3%(19ヵ月×0.7%)である。Aさんに当てはめると老齢基礎年金額は88万1,247円、老齢厚生年金額は124万3,127円となり、合計212万4,374円(月17万7,031円)となる。
よって、Aさんの60歳時点までの厚生年金加入実績に基づく年金額14.6万円から月3万円の年金受給額を増やすことができた。
まとめ
今回のケースでは、結果的に下記2点の改善をすることで年金受給額を月3万円増やすことができた。
2.老齢年金を19ヵ月(1年7ヵ月)繰下げ
この方法を知ったAさんは「これまでと生活を変えずに将来もらえる年金額が増えるなんて……すごいですね、安心感でにやけが止まりません」と大満足の様子。
しかし、年金の繰下げには、繰下げ後に支払う税金や社会保険料の金額が増えたり、「加給年金」の支給が停止になったりとデメリットもあるため、それらを理解したうえで検討すべきだ。
年金制度は「長生きリスクへの保険」であるため、筆者としては基本的には繰下げることが望ましいと考える。しかし、年金以外の収入がなく生活が厳しいと想定される場合は、その時点で受け取っても問題ない。むしろ受け取らざるを得ないケースもあるだろう。
また、障害年金や遺族年金を受給している場合は年金の繰下げ受給ができないため、該当される方については注意が必要だ。
結びになるが、年金に限らず家計収支を改善するためには、
2.支出を減らす
3.資産運用をする
のいずれかに集約される。そのため、読者の皆さま1人ひとりの状況や価値観に応じてベストな改善方法は異なる。また、今回の試算ではわかりやすいように「物価上昇」を考慮していないが、実際に計算する際には考慮が必須だろう。
自身のリタイアメントプランに不安なことや気になることがあれば、FPをはじめ専門家への相談をおすすめする。
草間 栄治
FP Office株式会社
ファイナンシャルプランナー