5―85歳以上高齢者のニーズ
次に、このような状態の85歳以上高齢者のニーズとして、どのようなものがあるかを検討したい。まず医療介護については、都道府県などが医療計画や介護保険事業計画を作成し、病床や在宅医療、介護サービスのニーズと供給計画などについて定めており、比較的備えは進んでいる。しかし、高齢者のニーズは医療介護だけではない。高齢者に優しいインフラや施設整備などまちづくりの他、住宅、移動、小売、金融など、社会保障以外にも、幅広い領域で高齢者向けのサービスが必要となる。
例として挙げれば、道路や駅、公共施設等のバリアフリー化、交通事故から守る歩道の整備、休憩できるベンチ等の設置、サービス付き高齢者住宅といったハードの整備、災害発生時の避難・援助態勢の整備といったソフト施策、高齢者が借りやすい賃貸住宅、外出の際の送迎サービス、認知機能が低下した顧客向けの金融サービス、移動販売車や配食サービス、介護予防に資する運動・共食・交流の場、家事支援、見守りサービス、犯罪被害を防ぐための声掛け、本人や家族の健康・生活相談窓口の設置などが考えられる。
地域ごとに、85歳以上高齢者のニーズを検討する際の一つの参考資料となるのが、介護保険法に基づいて、市区町村等が要介護認定を受けていない高齢者を対象に3年ごとに実施している「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」である。この調査には、地域に居住している高齢者の困りごとや心配ごと、自治体に対して充実を希望する施策等に関する設問がある。中には、「85歳以上」などと年齢階級別に回答結果を紹介しているケースもある。
例として、【図表3】でみた、2035年時点の85歳以上高齢者人口が上位の都道府県の中から、「85歳以上」の結果が公表されている自治体3団体(千代田区、大阪市、名古屋市)を選び出し、日常生活上のニーズに関する設問の結果を抜粋したものが、【図表6】である。これを見ると、85歳以上高齢者のニーズは、食事や掃除など家事援助や、外出時の送迎、健康づくりなど様々なものがある。市区町村によって設問と選択肢が異なるため、ニーズの全てを表している訳ではないが、備えを考える上で、一つの参考になるだろう。
また、要介護認定を受けている高齢者のニーズについては、厚生労働省が発表している「在宅介護等実態調査」の集計が参考になる*1。全国集計で「在宅で暮らし続けていく上で必要なこと」(複数回答)という設問への回答をみると、「移送サービス(介護・福祉タクシー等)」(21.1%)、「外出同行(通院、買い物等)」(19%)、「見守り、声掛け」(14.6%)などが上位となっている。
*1:坊美生子(2022)「高齢化と移動課題(上)~現状分析編~」(基礎研レポート)