働き方が多様化するなか、会社勤めからフリーランスへと独立したいと考えている人や、実際に独立したという人もいるのではないでしょうか。しかし世帯主がフリーランスの場合、万が一のときのために対策をしておかないと、遺族の生活が脅かされる場合があるといいます。35歳のフリーライターAさんの例とともに、FP事務所MoneySmith代表の吉野裕一氏が解説します。
月収33万円・35歳フリーライターの夫、逝去…「遺族年金支給額」をみた妻、子2人抱えた今後の生活に暗雲【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

公的年金が十分ではない…フリーランスの厳しい現状

昨今、働き方が多様化するなかで、会社に雇われて働くスタイルから、フリーランスとして独立し会社から仕事を受けて働くという人もいます。令和2年5月に内閣官房日本経済再生総合事務局から公表されたフリーランス実態調査によると、フリーランスとして働く年齢層は60歳以上が30%と最も多く、次いで40歳以上が22%、50歳以上が20%と40歳以上が7割以上となっています。また、フリーランスになった理由としては、約6割の人が「自分の仕事のスタイルで働きたいため」と答えています。

 

一方、フリーランスとして働くうえでの障壁として、約6割程度の方が「収入が少ない・安定しない」と回答しています。これは、2位の「1人で仕事を行うので、他人とのネットワークを広げる機会が少ない」との回答に圧倒的な差をつけています。

 

フリーランスを本業としている人の年収を見ると、「200万円以上300万円未満」と回答した人が19%と最も多く、次いで「100万円未満」、「100万円以上200万円未満」、「300万円以上400万円未満」が16%となっています。

会社員とフリーランスで異なる「遺族年金」の加入要件

今回は、以下に挙げるひとつのモデルケースをもとに、フリーランスの世帯主が亡くなった場合に遺族が受け取れる遺族年金についてみていきます。

 

【A家のプロフィール】
・Aさん:30歳でフリーランスのライターとなり、35歳で年収400万円(月収は約33万円)→逝去
・妻:専業主婦
・子ども2人(18歳以下)

 

30歳でフリーランスになったAさん。Aさんが会社員として働いていたころは、「第2号被保険者」として厚生年金に加入していました。払っている保険料には基礎年金も含まれますので、会社員の人は、基礎となる国民年金と上乗せ部分の厚生年金に加入していることになります。そして、専業主婦のAさんの妻は第3号被保険者として、保険料の納付はありませんが、国民年金に加入していることになります。

 

公的年金には、老後に受け取れる年金だけではなく、大きな病気やケガなどを負った際に支払われる「障害年金」や、生計を維持していた方を亡くした遺族に支払われる「遺族年金」の機能も備わっています。国民年金と厚生年金は、それぞれ支給要件が異なり、国民年金は厚生年金に比べ支給の要件が厳しくなっています。

 

遺族年金においては、故人が国民年金だけに加入している場合「子どものいない妻」には「遺族基礎年金」は支払われず、18歳までの子どもがいる場合に支払われます。ただし、この遺族基礎年金は性別に関係ありませんので、仮に妻が亡くなった場合でも、18歳までの子がいれば遺された夫に遺族基礎年金が支払われます。
※ 18歳になった年度末までの子ども

 

対して、故人が厚生年金にも加入している場合には、「子どものいない妻」であっても「遺族厚生年金」が支払われます。ただし、妻が会社勤めをしているなど第2号被保険者であり、かつその妻が亡くなった場合、遺された夫が55歳未満のときには遺族厚生年金は支払われません

 

今回のAさんのケースでは、Aさんが会社員からフリーランスのライターになったため、Aさんはこのとき「第2号被保険者」から「第1号被保険者」になりました。第1号被保険者は「国民年金」のみの加入となるため、遺されたAさんの妻と子ども2人には「遺族基礎年金」のみが支払われることになります。

 

遺族基礎年金は、今回のケースのように子どもが2人とも18歳以下であれば、令和4年度では年額122万5,400円が支払われることになります。月額にすると10万2,100円となります。長子が18歳になって年度末を過ぎると、子の加算が1人分なくなりますので、年金額は100万1,600円となり、月額8万3,500円となります。