大学生の約半数が利用しているとされる奨学金。昨今は返還不要の給付型の利用も広がっていますが、まだまだ主流は返還義務のある貸与型。平均15~20年ほどで返還完了といわれていますが、その間、ボディブローのように家計を圧迫し続けます。なかには返還困難に陥ることも。みていきましょう。
「だめだ、もう奨学金を返せない」手取り月20万円の30代非正規社員、自己破産するしかないのか? (※写真はイメージです/PIXTA)

奨学金返還が困難な時に利用したい、3つの救済措置

修学を後押ししてくれる奨学金。最近は返還不要の給付型の奨学金も増えていますが、その割合は奨学金利用者の4割弱。まだまだ返還しなければならない、貸与型が主流です。貸与型には日本学生支援機構の第一種奨学金(無利子)や第二種奨学金(有利子)がありますが、原則、卒業後の返還が必要です。このことを知らずして奨学金を利用するケースは想像以上に多く、返還延滞者の5人に1人は貸与終了以降に「返還義務を知る」という始末(独立行政法人日本学生支援機構『令和2年度奨学金の返還者に関する属性調査』より)。

 

さらに詳しくみていくと、延滞者の4割強が正社員、3割弱が非正規社員。一方、無延滞者の7割強が正社員、1割強が非正規社員。つまり、非正規の人ほど奨学金が返還できずに延滞状態になっているといえます。なぜそうなるのかは言わずもがな。正社員に比べて給与水準が低いからにほかなりません。

 

厚生労働省『令和3年賃金構造統計基本調査』によると、男性正社員の平均月収(所定内給与額)は39.4万円に対し、非正規社員は29.2万円と10万円ほどの格差。大学卒業後、正社員なら平均23.1万円、非正規社員なら21.3万円と、その差は2万円ほどですが、10年ほど経った30代前半では、正社員は31.6万円、非正規社員は24.8万円と、その差は7万円ほどに拡大。以降も給与差は広がるばかりです。

 

平均月1.7万円といわれている返還額。給与水準の低い20代前半であればその返還は大変ですが、年齢があがるにつれて給与水準はあがり、徐々に返還は楽になっていきます(結婚等、考慮しなければですが)。一方、非正規社員は年齢を重ねてもそれほど給与は上がらず、30代になっても手取りは20万円程度。いつまで経っても「奨学金の返還が苦しい」という状態が続きます。

 

【大卒「正社員/非正規社員」の月収(所定内給与額)】

20~24歳:23.16万円/21.30万円

25~29歳:26.80万円/24.63万円

30~34歳:31.64万円/24.88万円

35~39歳:36.82万円/25.92万円

40~44歳:41.12万円/26.05万円

45~49歳:45.58万円/26.45万円

50~54歳:50.98万円/34.32万円

55~59歳:51.48万円/30.65万円

 

出所:厚生労働省『令和3年賃金構造統計基本調査』

※数値は、男性、企業規模10人以上

 

——もうだめだ、奨学金を返せない

 

昨今の物価高、そんな苦境に陥る人も珍しくないでしょう。予定通り返還できない状況の場合、自己破産するしか方法はないのでしょうか。もちろん、そんなことはなく、いくつかの救済措置があります。

 

日本学生支援機構の奨学金の場合をみていくと、まずは月々の返還額を少なくする「減額返還制度」。毎月の返還額を減額して返還を続けるというもの、災害や傷病、その他経済的理由により奨学金の返還が困難で、当初の割賦金を減額すれば返還可能である人を対象としています。1回の願出で12ヵ月適用となり、最長180ヵ月(15年)まで延長可能です。

 

続いて返還自体を待ってもらう「返還期限猶予」。災害、傷病、経済困難、失業などの事情で返還困難となった場合に申し出ることができます。

 

これら2つの制度は、返還自体免除されるわけではありません。「返還免除」の制度もありますが、こちらは本人の死亡により奨学金の返還が不可能になったときの制度。そのほか、精神や身体障害により労働能力が喪失したときなども、未返還部分について、全額、または一部が免除されます。

 

このように、貸与型の奨学金は、どんな状況であっても必ず返還を続けなければならない、というものではなく、返還困難の場合の救済措置があります。ただよほどのことがない限り、返還免除にはならないことは覚えておく必要があるでしょう。