「空き家の増加」は、なぜ問題なのか?
近年の日本では、空き家が急増しています。理由は様々ですが、ひとり暮らしの親が亡くなったあと、独立して生活している子が実家に戻らないケ-スが多く、その後も「いずれ親族のだれかが住むかもしれない」「生まれ育った愛着のある実家を取り壊すのが忍びない」等の理由により、長らく空き家のままにする人もいます。
しかし、人が住まなくなった家は次のような問題点が発生します。
①屋根や外壁などが傷んで老朽化が進み、近隣の景観が悪化する
②不審者や動物等が住み着くなど、治安の悪化や環境の悪化につながる
③空き家が原因で周囲や第三者に損害を与えた場合、所有者に責任が生じる
④空き家法により自治体から周囲に悪影響を及ぼす「特定空き家」に指定されると、固定資産税の軽減が受けられなくなる
このように空き家の放置は、周辺地域への悪影響ばかりか、所有者にも多大なリスクをもたらすのです。
国はその対応策として、いくつかの特例等を用意し、自宅不動産の相続を容易かつ負担の軽いものとし、相続人が空き家を放置することのないよう、行動を促しています。
どのような特例があるか、具体的に見ていきましょう。
小規模宅地の特例:条件が揃えば土地の評価額が8割減
居住用の小規模宅地の特例というものがあります。被相続人(亡くなった方)が住んでいた住宅に一緒に住んでいた方がその家を相続し、引き続き居住する場合には、その土地の評価額を8割減してくれる特例です(330㎡までの上限あり)。
例えば、自宅の土地の路線価が30万円で、敷地が300㎡の場合、
30万円 × 300㎡ = 9,000万円
上記の相続税評価額になりますが、居住用の小規模宅地の特例を適用した場合、
30万円 × 300㎡ = 9,000万円 × (1-0.8) = 1,800万円
上記の評価とすることができます。
自宅の敷地が8割減できるのは大きな魅力ですね。ただし、同居していることが原則となります。
◆被相続人が老人ホームに入居していた場合は?
小規模宅地の特例は、原則として同居している親族が相続し居住することが要件となっているため、以前は老人ホ-ムに入居していた場合は適用されなかったのですが、さすがに高齢化の進展という社会背景もあって改正され、平成26年1月1日以降は、一定の要件に該当する場合であれば、小規模宅地の特例が使えることとなりました。具体的には、下記の2点です。
①介護が必要なため老人ホ-ムに入居したこと
②自宅を老人ホ-ムに入居後に、新たに賃貸等してないこと
①は、要介護認定等を受けていることが要件となります。②は、「空いているからもったいない」などと他人に賃貸するのはもちろん不可ですが、自分の親族に無償で貸し出すのも不可となってます。
適用を受けるには細かい要件もあるため、親が老人ホ-ムに入る場合、この適用要件を確認されることをお勧めします。
◆家なき子特例
しかし、小規模宅地の特例には様々な理由により同居していない相続人が相続した場合でも、小規模宅地の特例を適用できるものがあります。これを「家なき子特例」ともいいます。ただし、この特例を利用するには次の4要件を満たす必要があります。
①亡くなった人(被相続人)に、配偶者や同居の相続人がいない
②相続開始前の3年間、持ち家に住んだことがない
③相続した宅地を、相続開始から10ヵ月間所有し続けている
④相続開始時に居住している家屋を、これまで一度も所有していない
ひとり暮らしの親御さんが亡くなったたときは、要件に該当するかどうか検討してみて下さい。
空き家売却の3,000万円の特別控除:譲渡所得税を軽減
ひとり暮らしの親がなくなり、自宅を空き家のまま相続してその後売却した場合、その譲渡所得税の計算において一定の要件に該当する場合、その譲渡益から3,000万円控除することができる特例があります。
家を売却し、売却益が出た場合譲渡所得税がかります。税率は譲渡所得に対し、所有期間により異なり、「5年以内=20.315%」「5年超=39.63%」となっています。ただし、期間はその年の1月1日において計算される点にご注意ください。
譲渡所得は、下記計算式で算出されます。
売却収入 - (取得費+譲渡費用) - 特別控除 = 譲渡所得
一例として、
長期保有の不動産を6,000万円で売却し、取得費が2,000万円、譲渡費用が500万円だった事例において、空き家売却の3,000万円特例を使わなかった場合と使った場合を比較すると、下記のようになります。
●空き家売却の3,000万円特例を使わない場合
6,000万円 - 2,000万円 - 500万円 = 3,500万円 × 20.315%
= 約711万円
●空き家売却の3,000万円特例を使った場合
6,000万円 - 2,000万円 - 500万円 - 3,000万円
= 500万円 × 20.315%
= 約101万円
特例を使った結果、譲渡所得税は約600万円と、大きく圧縮することができました。ただし、この特例を利用するには次の7要件を満たす必要があります。
①亡くなった方がひとりで暮らしていた家であること
②昭和56年5月31日以前に建築された家であること
③相続から売却までずっと空き家であったこと
④売却する空き家は耐震基準を満たしているか更地であること
⑤2023年12月31日までの売却であること
⑥売却代金が一億円以下であること
⑦親子や夫婦以外など特別な関係者以外の売却であること
空き家を売却する予定がある場合などは、この特例を検討ください。
◆被相続人が老人ホームに入居していた場合は?
この空き家売却の3,000万円の特別控除は、老人ホ-ムに入所し、空き家を残して相続があった場合などにも適用されます。ただし、以下の要件に該当することが必要となります。
①亡くなった方が老人ホ-ムに入所する直前に要介護認定等を受け、相続開始直前まで老人ホ-ム等に入所していたこと
②亡くなった方が老人ホ-ム等に入所したときから相続開始直前まで、その家屋が亡くなられた方の一時滞在、あるいは家財道具の保管場所等として継続使用されていたこと
③亡くなった方が老人ホ-ム等に入所していた場合は、2019年4月1日以降の売却であること
④生前に老人ホ-ムに入居していた場合には、入所の証明書が必要となる
もはや他人事ではない、「高齢親」と「空き家」の問題
主に、相続に係わる空き家と老人ホ-ムに入った場合などでも使える特例についてご紹介しました。
高齢化社会に伴い、上記のような問題は誰もが他人事ではないと思われます。ひとり暮らしの親御さんがいらっしゃる場合は、一度各種特例を適用できるかどうか、確認されることをお勧めします。
宮路 幸人
多賀谷会計事務所
税理士 CFP