日本の金融教育は世界的にみて圧倒的に遅れていると言わざるを得ません。日本では義務教育における金融教育の授業は中学3年生に1~5時間程度です。しかしながら、例えば英国では小学校の全学年で学習する機会があります。年間2,000名以上の子どもたちに出張授業という形で金融教育プログラムを提供する盛永裕介氏は、子どもたちのお金に関する知識の低さは将来のキャリア選択にも影響すると指摘します。子どもたちが金融リテラシーを身に着けることで将来の選択肢をどのように広げられるか? 実際の事例をもとに解説します。
小学生からスマホでキャッシュレス決済…お金の「価値」の見積りが低い子どもたちが、金融授業で初めて知ったこと (※写真はイメージです/PIXTA)

お金の「価値」が擁する3つの機能について学ぶ

まず、お金の役割の1つ目「価値」について考えます。「価値」には、価値交換(モノとモノ、価値と価値を交換する)、価値尺度(あらゆるモノの価値を通貨をもとに決める)、価値保存(通貨を価値あるものとして長期的に保存できる)の3つの機能があります。

 

3つの機能について概念的な説明だけをしてしまうと生徒の多くは興味を示さないので、硬貨や紙幣の成り立ちを例に挙げ、機能に関するケーススタディを交えた説明を行いました。

 

そして、お金に「価値」があるからこそ成り立つお金の循環について学んでいきます。お金はどのように世の中で流通しているのか? 自分が1個100円の消しゴムを購入すると、その代金は誰に支払われるのか? など身近な例を参考に解説します。

 

生徒からは「お金は物を買うためのものではなく、人との関わりにおいて重要な役割を果たしていることを理解することができた」「お金が社会に与えている影響について理解することができた」という声が上がりました。

中学生にとって新たな視点である、お金の擁する「信頼」と「想い」

そして、お金の役割2つ目「信頼」について考えます。「金融=お金を融通すること」という概念を提示し、信頼関係のない見ず知らずの人とモノやサービスを交換するとき、お金が信頼を生むことを説明しました。

 

最後に、お金の役割3つ目「想い」について考えていきます。間接金融と直接金融の違いや、投資や寄付の観点から、社会や環境に対して、お金で自分の意思を表現できると学びました。

 

生徒からは、「自分の知らなかったお金の役割について知ることが出来た」「お金は、その物の価値を決めるだけだと思っていたが、感謝の気持ちを込められるものでもあるということが分かった」という感想を得ており、お金に対して新たな知見が広がった様子でした。

行動経済学の視点でお金の使い方を見直す

2時間目はお金との付き合い方について考えていきます。

 

まず、1年間どのようなことにお金を使ってきたのか、商品の金額と商品を購入した理由を書き出します。購入した理由について、「みんな持っているから」「友達の間で評判が良かったから」という世間の流行や周りの評価を判断材料にするバンドワゴン効果に影響を及ぼされ、商品を購入している生徒が多い印象でした。

 

また、アプリゲームにおいて、「もっと強くなりたい」「ほしいキャラクターがいる」などの理由でガチャ課金しているケースも多く、過去に失って取り戻せないコストであるサンクコスト効果に影響されている生徒が、一定数いることが分かりました。

 

そこで、お金を使うときにはどのようなことに気をつけるべきか考えてもらったうえで、合理的意思決定を心がける重要性について説明しました。