会社勤めの期間が短いと、将来受け取れる公的年金額が多いとはいえません。夫は工務店の社長、妻は専業主婦、お金には堅実的な2人ですが、老後の生活資金が足りなくなる可能性がある夫婦の事例を、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。
「年金月15万円」で「貯蓄3,000万円」でも…59歳・工務店社長が逆に笑ってしまった、FPからの“衝撃の指摘” (※写真はイメージです/PIXTA)

45歳で独立、工務店を立ち上げたSさんの事例

老後は、年金と貯蓄(自助努力)で生活資金を賄う人が多いと思いますが、生活に必要な金額は1人ひとり、もしくは家庭ごとに違っています。夫婦2人の老後の最低日常生活費は月額23.2万円、ゆとりある老後生活費は月額37.9万円(公益財団法人生命保険文化センター、2022(令和4)年度生活保障に関する調査(速報版)という調査結果がでています。そこで今回は、将来受け取る年金額を計算したとき、一般的な家庭でも理想とのギャップを感じる事例を紹介します。

 

はじめに、Sさん夫婦のこれまでの職歴の紹介と公的年金の加入履歴から年金額を計算します。Sさんは高校卒業後、個人経営の工務店に就職、見習いから修行し、25歳で大手建設会社へ転職し、社会保険に加入しました。実績と経験を積み、40歳で独立、工務店を立ち上げました。土地の値下がりと住宅減税もあり、建設バブルとまでいいませんが、仕事は順風満帆で日常生活も余裕のある生活を送っていました。家族構成は専業主婦の妻と、子ども2人という同年代では一般的なモデルケースです。

 

65歳から受け取る年金は会社勤めが短かったため、公的年金額が多いとはいえません。しかしながら、堅実なSさん夫婦は老後生活を見据えて現役時代からそれなりの貯蓄をしてきました。そのため、老後の生活も夫婦でゆとりある生活を過ごせるかと思っていました。そのような準備をしてきた結果にもかかわらず、厳しい現実が待ち受けていました。具体的に事例紹介していきます。

 

Sさんの公的年金額は次のとおりです。

 

・個人経営の工務店:社会保険の加入なし、20歳~25歳の退職までの5年間、年金保険料は未納

・大手建設会社:25歳~40歳まで厚生年金保険に加入、平均標準報酬額月額40万円

・個人事業主:40歳~60歳まで国民年金に加入

 

【Sさん夫婦の65歳から受け取る公的年金額】

老齢基礎年金:(夫)777,800円×420月÷480月=680,575円

       (妻)777,800円×480月÷480月=777,800円

老齢厚生年金:400,000円×5.481÷1,000×180月=394,632円

合計:1,853,007円/年(月額154,417円)

生活費月50万円の生活が一変

個人事業主となり、平均月額50万円を生活費として受取っていたSさん夫婦の日常生活費ですが、子どもの大学卒業まで教育費が多くを占めていました。しかし、平均10万円程度を自分たちの老後資金として金融機関等に預金していました。Sさん夫婦は、65歳になったとき、預貯金3,000万円まで貯めることができました。老後も現役世代と同様にゆとりある老後生活(月額38万円)を希望しています。ただし、公的年金受給額が夫婦2人で毎月約15万円であるため、毎月23万円不足することになります。

 

年額276万円(23万円×12ヵ月)不足するため、このままでは預金が10年で底をつくことになります。日本人の平均余命は、65歳から男性19.85年、女性は24.73年となっていることを考慮すると、65歳から年金を受取りはじめたとしたら、約10年後からは15万円の年金のみで生活することになります。Sさん夫婦が75歳を迎えるころに、破綻すれすれの不足額が発生することをお伝えすると、Sさんは「こんなに働いて、こんなに貯めてもこれだけか……」と逆に笑ってしまいました。