2022年10月の全国消費者物価指数(総合)は前年同月比+3.7%と、消費税率引上げの影響を除くと1991年1月の+4.0%以来、31年9ヵ月ぶりの上昇となりました。本稿では2023年度の年金額について、2023年1月20日と見込まれる正式公表(年金額の改定は、前年1~12月の物価上昇率が発表される日、原則として1月19日を含む週の金曜日に公表される)をスムーズに理解するための準備として、年金額改定のルールを確認し、現時点のデータに基づく粗い見通しと注目ポイントをニッセイ基礎研究所の中嶋 邦夫氏が考察していきます。
2023年度の年金額は、67歳までは2.1%増、68歳からは1.8%増の見通しだが、実質的には目減り…年金額改定の仕組み・見通し・注目ポイント (写真はイメージです/PIXTA)

2. 改定率の計算過程:2022年の物価上昇が織り込まれるが、年金財政健全化のため実質的には目減り

今後の動向や現時点で把握できていない共済分の動向は不透明だが、2023年1月に予定されている正式公表を理解するための準備として、改定率の粗い見通しを試算した(図表6)

 

【図表6】
【図表6】

(1) 本来の改定率:2022年の物価上昇と2021年度の賃金上昇で大幅なプラス

まず、本来の改定率の計算過程を確認する(図表6の上段の2023年度の列)。物価変動率(図表6上段の①の列)は、前述した+2.5%(仮定)である。実質賃金変動率(図表6上段の②の列)は、3年度前が新型コロナ禍の影響で下落した-0.5%(実績)だが、2年度前がその反動で上昇した+1.4%(仮定)であるため、3年平均は+0.3%となる。3年平均を使うことで、急激な変動が回避されている。可処分所得割合変化率は2017年に保険料の引上げが終わりゼロ%であるため、本来の改定率の指標となる賃金変動率(名目手取り賃金変動率)は、物価変動率と実質賃金変動率を合計した(厳密には掛け合わせた)+2.8%となる。

 

本来の改定ルールは、賃金上昇率(+2.8%)が物価上昇率(+2.5%)を上回るため、67歳までが賃金上昇率(+2.8%)、68歳からが物価上昇率(+2.5%)となり、両者が相違する(図表6上段の④の列)

 

(2) 調整率(マクロ経済スライド):前年度からの繰越と2020~2021年度の加入者減で-0.7%

次に、年金財政健全化のための調整率(いわゆるマクロ経済スライド)を確認する(図表6の下段の2023年度の列)。当年度分の調整率は、公的年金加入者数の変動率から高齢世代の余命の伸びを勘案した率(0.3%)を差し引いた(厳密には掛け合わせた)率となっている。公的年金加入者数の変動率(図表6下段の⑤の列)は、4年度前にあたる2019年度は高齢期就労の進展で+0.3%(推計した実績)だったものの、新型コロナ禍のためか、3年度前にあたる2020年度は-0.1%(推計した実績)、2年度前にあたる2021年度は-0.4%(仮定)、と2年度連続でマイナスとなった。その影響で、3年度の平均は-0.1%となる。ここから高齢世代の余命の伸びを勘案した一定率(0.3%)を差し引いた-0.4%が、2023年度の当年度分の調整率となる。これに、前年度からの繰越分(図表6下段の⑦の列)の-0.3%(67歳まで/68歳からとも)を加えた-0.7%が、2023年度に適用すべき調整率となる。

 

(3) 調整後の改定率:本来の改定率が高いため、繰越し分も含めて調整率をすべて適用

実際に適用される改定率は、本来の改定率に、年金財政健全化のための調整率(いわゆるマクロ経済スライド)が図表4の特例ルールを考慮した上で適用されて決まる(図表7)。2023年度の改定率における調整の適用は、67歳まで/68歳からともに本来の改定率が適用すべき調整率(の絶対値)を上回っているため、適用すべき調整率がすべて適用される(図表4の繰越調整(原則)に該当)。この結果、実際の年金額に反映される調整後の改定率は、67歳までが+2.1%、68歳からが+1.8%となり(図表6下段の⑧の列)、翌年度へ繰り越す調整率は67歳まで/68歳からともにゼロ%となる(図表6下段の最右列)

 

【図表7】
【図表7】