はじめに
前回は2022年第3四半期までの時点で、都道府県別の男女合計の転入超過数(転入数―転出数=人口移動による純増減)がプラスとなった「人口移動の勝ち組」となっている10エリアについてランキング形式で解説した。
今回はさらに10月の状況を加味したうえで、1月から10月の都道府県別の男女合計の転入超過数がマイナス(社会減)となったエリアについて、同じくランキング形式で解説したい。
残念ながら、コロナ禍における人口の転出控え効果は社会減エリアが持つ根本的な課題に対して、改善という変化をもたらさなかったことが浮き彫りとなる結果となっている。
転出超過(社会減)エリア合計、再び10万人を突破
コロナ禍前の2019年においては、年間で転出超過が発生したエリアは47都道府県中、39道府県であった。その転出超過数の合計は16万1546人にのぼり、この半数以上(51%)が東京都における転入超過につながった。その後、コロナ禍による慎重な移動が続いた2020年~2021年を経て、2022年は3月以降、全国で移動制限が実施されることもなくなり、コロナ禍前に近い人口移動が発生している状況となっている。
2022年も残すところ半月となった12月上旬現在、総務省「住民基本台帳人口移動報告」では10月までの人口移動の結果が公開されている。このデータを分析した結果、すでに37道府県において転出超過(社会減)となっており、その合計は11万151人であることが判明した。年間の5/6が経過した段階で、コロナ禍前(2019年:16万1546人)の68%水準にまで人口の入れ替え規模が復活してきている(図表1)*1。
筆者は2018年から当研究所のレポートを中心に繰り返し、地方の人口減少、つまり東京一極集中が「主に女性の移動」によって発生していることについて警鐘を鳴らしてきた。地方創生や地方における顕著な出生減について、この女性の移動が大きな負の影響をもたらしていることを人口動態の専門家として強い危機感をもって伝えてきた。
しかしながら、いまだに地方創生や地域における少子化問題の主軸が、古い時代の価値観に基づくエビデンスなきアンコンシャス・バイアスにより「学生誘致」「男性の職場誘致」「家族形成後の女性の子育て支援」「地元に残る(または夫について来た)女性前提のサブ的な仕事支援」などの現状の人口動態の実態を無視した対策がメインとなったままである。「古き時代の女性像」に基づく多様性に欠ける価値観で設計されている対策であることが人口減に直結していることが認知されていないことが残念でならない。
2022年の10か月間の男女別の転出超過状況を見てみよう。37道府県から11万151人の人口が移動によって失われた。そしてそのうち女性が6万3533人と転出合計者数の58%を占めており、エリアによって差はあるものの合計では男性の平均1.4倍の女性が社会減エリアから消えている。わかりやすく言うならば、地方からの人口の社会減(地方創生)対策の6割は、女性対策でなくてはならないことをデータは示している。コロナ禍前の2019年においては、男性(7.0万人)の1.3倍の女性(9.2万人)が転出超過エリアから消えていたことを考えると、社会減規模の男女アンバランスはさらに悪化していると言える。
*1:ちなみに2020年は12.1万人、2021年は9.7万人の移動後の人口入れ替えが発生した。