住宅ローンの審査において「勤続年数」は、90%以上の金融機関が考慮要素とする項目です。勤続年数が短い場合、審査にどのような影響があるのか、審査に通過するためにどのようなことができるのか等について解説します。
住宅ローンの審査において勤続年数が短いことによる影響と対処法 (※写真はイメージです/PIXTA)
1. 勤続年数はほとんどの金融機関で住宅ローンの審査項目になっている
2. 住宅ローン契約に必要な勤続年数は何年?
2.1. 金融機関は1~3年以上の勤続年数での契約を求めている
2.2. 住宅取得時の勤続年数は平均何年ぐらい?データで比較
3. 住宅ローンを扱う金融機関が「勤続年数」から判断していること
3.1. 継続して安定した収入が見込めるかどうか
3.2. 今後収入が増加する見込みがあるかどうか
4. 勤続年数が短い人も住宅ローンを借りられる?
4.1. 正社員で3ヵ月以上なら金融機関を選べば申し込みは可能
4.2. 勤続年数1年未満の場合に考えられる不利益な事情
5. 勤続年数の短さが不利な影響を及ぼさない3つのケース
5.1. 関連会社・グループ会社に同等以上の待遇で転職、出向した場合
5.2. 同じ業界内でのキャリアアップの場合
5.3. 士業など資格免許職への転職
6. 勤続年数が短い人が住宅ローンを利用するには
6.1. 勤続年数以外の条件を可能な限り整える
6.2. 勤続年数の条件がない「フラット35」を利用する
7. 住宅ローンと勤続年数の関係に関するQ&A
7.1. 嘘の勤続年数を申告したらバレるか?
7.2. ペアローンの場合は誰の勤続年数で審査されるか?
7.3. 個人事業主の勤続年数はどう判断されるか?
7.4. 倒産など会社都合の退職は考慮されるか?
まとめ

1. 勤続年数はほとんどの金融機関で住宅ローンの審査項目になっている

勤続年数はほとんどの金融機関での住宅ローン審査項目の1つ
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

ほとんどの金融機関において、「勤続年数」は住宅ローンの融資の際に審査基準となる項目の1つです。国土交通省の令和3年度の「民間住宅ローンの実態に関する調査」によると、94.5%の金融機関が「勤続年数」を審査基準の項目として挙げています。

 

もちろん、審査の合否は「勤続年数」だけで判断されるものではありません。他にも以下の通りさまざまな項目があります。

 

  • 「住宅ローン完済時の年齢」
  • 「住宅ローン借入時の年齢」
  • 「現在の健康状態」
  • 「年収」
  • 「担保の評価」
  • 「返済負担率」
  • 「連帯保証」

とはいえ、勤続年数は多くの金融機関において、審査の際に重要視される項目であることに変わりはありません。金融機関は、住宅ローン契約者に返済能力がなければ不利益を被ります。返済能力を担保する情報の一つとして、勤続年数が重要視されるのです。

2. 住宅ローン契約に必要な勤続年数は何年?

住宅ローン契約に必要な勤続年数は何年?
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

「勤続年数」は審査の重要な項目ですが、何年あれば住宅ローンの審査に通ることができるのでしょうか。

 

2.1. 金融機関は1~3年以上の勤続年数での契約を求めている

国土交通省の令和3年度の「民間住宅ローンの実態に関する調査」によると、前述した通り94.5%の金融機関が「勤続年数」を融資の審査の際に考慮しています。また、約80%の金融機関において、勤続年数について「1年以上」~「3年以上」という条件を要求しています。

 

回答の比率は以下の通りです。

 

  • 3年以上:18%
  • 2年以上:6%
  • 1年以上:58%
  • その他:18%

 

過半数の金融機関が「勤続年数が1年以上」という条件を望んでいることがわかります。審査の条件として勤続年数に下限を設けている金融機関は、その条件を満たさなければ審査に通りません。

 

審査基準は金融機関によって異なります。大手銀行は、「勤続年数」を審査基準に取り入れる傾向にあります。一方、ネット銀行であれば勤続年数を問わない銀行もあり、勤続年数よりも年収が重視される傾向にあります。

 

審査の申込書には、転職歴の記入欄が設けられていることが一般的です。転職回数が多かったり、勤務期間が短期間だったり、無職の期間が長かったりすると「安定した返済能力がない」と見なされ、審査に悪影響を及ぼすことがあります。

 

2.2. 住宅取得時の勤続年数は平均何年ぐらい?データで比較

実際のところ、どのくらいの勤続年数で住宅を購入している人が多いのでしょうか。

 

国土交通省の「令和3年度 住宅市場動向調査報告書」によると、住宅を購入する時点の平均勤続年数は14.0年です(なお、この調査は住宅ローンの使用の有無を問いません)。

 

住宅の種別ごとにみると以下の通りです。

 

種別

勤続年数

注文住宅

14.4年

分譲戸建

11.6年

分譲マンション

15.7年

中古住宅

15.6年

中古マンション

14.0年

 

平均勤続年数はいずれも10年を超えています。この調査からは、一定期間同じ企業で働き続けて収入が安定し、ライフプランが固まって自己資金を蓄えたタイミングで住宅を購入している人が多いことを推察できます。

3. 住宅ローンを扱う金融機関が「勤続年数」から判断していること

住宅ローンを扱う金融機関が「勤続年数」から判断していること
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

住宅ローンにおける審査は、金融機関が契約者の返済能力を判断することをいいます。では、金融機関は「勤続年数」からどのようなことを判断しているのでしょうか。

 

結論からいうと、「継続して安定した収入があるかどうか」と「今後収入が向上する見込みがあるかどうか」を見ています。

 

3.1. 継続して安定した収入が見込めるかどうか

長期間にわたってローンを返済していくには、継続して安定した収入が必要です。よって、勤続年数が短いと「安定した返済能力がない」と判断されてしまうことがあります。

 

金融機関は、返済が滞る可能性の高い相手には融資を避けるものです。勤続年数が長ければ、それだけ継続して安定した収入があり、返済が滞るリスクが低いと判断できます。そのため、多くの金融機関で審査基準として用いられています。

 

3.2. 今後収入が増加する見込みがあるかどうか

一般的に、勤続年数が長くなるほど昇給などによって収入が増加することが見込まれます。収入が増えれば、可処分所得が増えて支払能力が上がり、住宅ローンの返済能力も高くなると判断することが可能です。

 

反対に、勤続年数が短ければ「今後収入が増加するまで時間がかかる」と判断されます。また、勤続年数が短いうちは、仕事に馴染めず退職をしたり転職をしたりする可能性も考えられ、将来的に年収が減る可能性もあります。そのような事情から、勤続年数が短いと審査が厳しくなるのです。

4. 勤続年数が短い人も住宅ローンを借りられる?

勤続年数が短い人も住宅ローンを借りられる?
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

転職したばかりの人が、必ずしも住宅ローンを借りられないわけではありません。審査の基準として「勤続年数」を設定していない金融機関を選べば、借りられる可能性があります。一部の銀行やネット銀行は、「勤続年数」に制限がありません

 

4.1. 正社員で3ヵ月以上なら金融機関を選べば申し込みは可能

「勤続年数」を審査基準の項目としていない金融機関だと、だいたい、正社員で3ヵ月以上勤務しているのであれば住宅ローンの申し込みが可能です。

 

住宅ローンの審査は、さまざまな審査基準を総合的に判断して合否が決まります。他の審査基準も踏まえ総合的にみて「返済能力がある」と判断されれば、審査に通る可能性があります。

 

4.2. 勤続年数1年未満の場合に考えられる不利益な事情

ただし、勤続年数が短い場合、そうでない場合と比べて不利益にはたらくのはやむをえません。たとえば、以下のようなことです。

 

4.2.1. 見込み年収での審査になる

通常、収入を証明する書類として用いられるのは、直近1年分の「源泉徴収票」や「所得証明書」です。しかし、勤続年数が1年未満の場合は、現職での収入を証明する「源泉徴収票」や「所得証明書」を用意できません。

 

したがって、見込み年収での審査となります。その際には、見込み年収の確認資料として、「採用通知書」や「雇用契約書(労働条件通知書)」といった1年分の見込みの収入金額と雇用形態が確認できる証明書、給与明細・賞与明細の提出を求められます。

 

4.2.2. 希望する金額の借り入れができない可能性がある

「勤続年数」は、金融機関が借入限度額を決定する際にも考慮される項目です。勤続年数が短いと、「十分な返済能力がある」とは断言できません。したがって、希望の借入額を借りられない可能性があります。

 

ただし、勤続年数が短くても、それが審査に不利な影響を及ぼさないケースがあります。詳しくは後述します。

 

4.2.3. 職務経歴書の提出が必要なことがある

金融機関によって異なりますが、転職してから3年未満の場合は職歴書の提出が必要です。金融機関によって、「申込年度の前年1月以降に転職した場合」等に履歴書の提出が必要とされていることもあります。金融機関のホームページを確認すべきです。

 

職務経歴書は、金融機関指定のフォーマットを基に作成するのが一般的です。多くの場合、学校を卒業したあとのすべての職歴を書くことになります。

5. 勤続年数の短さが不利な影響を及ぼさない3つのケース

勤続年数の短さが住宅ローン審査に影響しにくい3つのケース
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

勤続年数が短くても、審査に不利な影響を及ぼさないケースが3つあります。

 

5.1. 関連会社・グループ会社に同等以上の待遇で転職、出向した場合

勤務先の要請などによって関連会社・グループ会社へ同等以上の待遇で転籍した場合は、実質的には同じ企業に勤め続けていると見なす金融機関が多い傾向にあります。

 

関連会社・グループ会社への転籍は、会社都合のものです。したがって、自己都合の転職とは見なさずに、転籍前と転籍後の年数を合算して評価します。

 

ただし、転籍後の年収が大きく下がっていたり企業規模が小さくなっていたりすると、審査で不利になることがあります。

 

5.2. 同じ業界内でのキャリアアップの場合

転職が同じ業界内・職種でのキャリアアップだと見なされれば、審査に有利になることがあります。なぜなら、同業界内・職種であれば、培った専門的なスキルや経験などを活かして働けるからです。

 

また、未経験の業界・職種に転職する場合に比べて転職先に定着しやすく、将来的に転職したとしても継続して安定した収入が見込める可能性が高いと判断されます。

 

加えて、転職先の会社が規模の大きい知名度の高い会社で、転職に伴って年収が上昇していれば、より審査に有利に働きます。

 

ただし、あまりに頻繁に転職を繰り返していると「安定した収入がない」と判断されかねません。

 

5.3. 士業など資格免許職への転職

税理士や弁護士といった高度な専門性を持つ資格職業である「士業」への転職は、金融機関の印象がよく、審査に有利に働くことがあります。特に、転職先が大手の事務所で正社員雇用されていれば、収入の安定度が高いと見なされ、審査に通りやすくなります。

 

「士業」は法律で独占業務が定められていて仕事が守られ、社会的な地位もある仕事です。そのことが、審査においてもプラスに働くことがあります。

6. 勤続年数が短い人が住宅ローンを利用するには

勤続年数が短い人が住宅ローン審査に通るための対策
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ほとんどの金融機関が審査基準として「勤続年数」を重視するなか、転職したばかりの人が住宅ローンを利用しやすくするにはどのような方法があるのでしょうか。

 

6.1. 勤続年数以外の条件を可能な限り整える

先述した通り、審査はいくつもの審査基準を総合的に判断して合否が決定します。そのため、勤続年数が短い人が審査に通るためには、他の条件に問題がないようにしておくことが必要です。

 

たとえば、「返済負担率」を改善したいなら、車のローンやカードローンを返済しておいたり、借入額を低めにしたりするとプラスにはたらきます。また、「信用情報」を傷つけたくないのであれば、クレジットカードや公共料金の支払いを延滞することや、消費者金融を利用することは厳禁です。

 

6.2. 勤続年数の条件がない「フラット35」を利用する

勤続年数が短い人は、審査基準に「勤続年数」がない「フラット35」を利用するという選択肢があります。「フラット35」は、以下の6点について総合的に審査が行われます。。

 

  • 「住宅ローン借入時の年齢」
  • 「年収」
  • 「借入額」
  • 「借入期間」
  • 「住宅の技術基準」
  • 「住宅の床面積」

 

「フラット35」は民間の金融機関が住宅金融支援機構と提携して扱う「全期間固定金利型住宅ローン」です。金利が固定されているため、借り入れるときに総返済額が確定します。そのため、市場金利に変動があっても総返済額が変わる心配がないのが特徴です。ただし、変動金利に比べて高い金利となります。

 

7. 住宅ローンと勤続年数の関係に関するQ&A

住宅ローンと勤続年数の関係に関するQ&A
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最後に、勤続年数に関するよくある質問について回答します。

 

7.1. 嘘の勤続年数を申告したらバレるか?

勤続年数は健康保険証の資格取得日で確認できます。したがって、申込書の入社年月日を偽るとバレます。事実と異なる申告をしてはなりません。虚偽の申告は金融機関との信頼関係を損ね、審査の評価にマイナスの影響を与えます。

 

7.2. ペアローンの場合は誰の勤続年数で審査されるか?

ペアローンの場合も、勤続年数は各自について判断されます。ただし、片方の勤続年数が短くても、もう片方の信用情報が高ければ、単独で住宅ローンを申し込むよりも審査に通過しやすいといえます。

 

その代わり、ペアローンにおいては、片方に万が一のことがあった際に残された方の返済義務が残ります。また、事務手数料・諸費用はそれぞれが負担しなければなりません。

 

7.3. 個人事業主の勤続年数はどう判断されるか?

個人事業主の場合は、営業年数が勤続年数と同視されます。一般的に審査には直近3年分の納税証明書や確定申告書といった書類が必要とされるため、3年以上の実績が必要だといえます。

 

ただし、個人事業主は給与所得者に比べて収入が不安定だと考えられているため、審査が厳しくなる傾向があります。たとえば、提出した書類に赤字決算の年があると「安定した返済能力がない」と判断されやすくなります。3年連続で黒字決算となってから申し込むことをおすすめします。

 

7.4. 倒産など会社都合の退職は考慮されるか?

企業の倒産やリストラによる会社都合の退職は、通常の転職と同列に扱われます。先述した「5.1. 関連会社・グループ会社への転職、出向のケース」のような配慮は期待できません。

まとめ

住宅ローン勤続年数まとめ
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住宅ローンの審査において、「勤続年数」は、90%以上の金融機関が考慮要素とする項目です。大半の金融機関が、審査に申し込む際に、「1年以上」~「3年以上」という勤続年数の条件を設定しています。

 

勤続年数が短い場合、それでも住宅ローンを利用したいのであれば、「勤続年数」を審査基準としていない金融機関や「フラット35」を利用するという方法があります。