住宅ローンの返済資金や住宅購入資金の援助を受けた場合に贈与税が課税されるのはどのようなケースか、および、贈与税の課税を回避する方法や非課税枠を活用する方法を紹介します。
住宅ローン・住宅購入の資金援助にかかる贈与税を回避・軽減する方法 (※写真はイメージです/PIXTA)
1. 住宅ローン返済に「本人以外のお金」が加わると贈与税の課税対象になる
1.1. 夫婦間で贈与税の対象になり得る場合
1.2. 親子間で贈与税の対象になり得る場合
1.3. 住宅ローンの返済資金は「贈与税対象外の財産」にはあたらない
2. 贈与の対象になった場合の贈与税の計算方法と計算例
2.1. 贈与税の計算方法と計算に用いる税率について
2.2. よくあるケースでの贈与税の計算例
3. 住宅ローン返済の援助にかかる贈与税を回避する方法
3.1. 物件の持分割合と住宅ローンの負担割合をそろえる
3.2. 金銭消費貸借契約を結ぶ
3.3. 暦年贈与の非課税枠を超えない範囲で援助を受ける
3.4. 相続時精算課税制度を活用する
4. 住宅取得等資金の非課税特例制度
4.1. 住宅取得等資金の非課税特例制度とは
4.2. この非課税特例を利用するときの注意点
5. 夫婦間の住宅資金贈与には配偶者控除を利用できる場合も
まとめ

1. 住宅ローン返済に「本人以外のお金」が加わると贈与税の課税対象になる

住宅ローン返済に本人以外のお金が加わると贈与税の対象に?!
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

住宅の所有者以外の人のお金が住宅ローンの返済資金に充てられると、贈与税が発生することになります。本項では、贈与税の課税対象となるケースを紹介します。

 

1.1. 夫婦間で贈与税の対象になり得る場合

夫婦間であっても贈与税が課されるケースとして、次の場合が挙げられます。

 

1.1.1. 住宅の持分割合と住宅ローンの負担割合が異なる場合

たとえば、住宅の持分割合について、夫が100%であるにもかかわらず、妻がローンの一部を返済する場合がこれにあたります。妻の負担した住宅ローンの額が、妻から夫への贈与として、贈与税の対象となります。

 

1.1.2. ペアローンから単独債務に借り換える場合

住宅を購入した当初は、夫婦2人がそれぞれローンを組んだものの、ライフスタイルの変化に伴い、どちらか一方の単独債務に借り換える必要が生じるかもしれません。

 

妻の住宅の所有権を移転せずに夫の単独債務に借り換えた場合、妻の住宅ローンの残債分を夫が肩代わりしたことになり、夫から妻への贈与として贈与税の対象となります。

 

1.1.3. 離婚に伴い、住宅の所有権を変更する場合

原則、離婚に伴い住宅の所有権を変更する行為は、財産分与とされるため贈与税は課されません。

 

ただし、財産分与の額が高すぎる場合や、贈与税を回避するために離婚をしたと考えられるものについては、贈与税の対象となります。

 

1.2. 親子間で贈与税の対象になり得る場合

子どもの住宅ローン返済に対し、親が資金援助をした場合には、贈与税が課されます。親の住宅ローン返済に対し、子どもが資金の援助した場合も同様です。

 

よくあるケースは、子どもの住宅ローンの返済が滞った場合に、親が代わりに支払うケースです。代わりに支払った住宅ローンの残債分が、親から子どもへの贈与として、贈与税の対象となります。

 

1.3. 住宅ローンの返済資金は「贈与税対象外の財産」にはあたらない

贈与税は原則として、受け継いだ財産すべてに課されます。ただし、配偶者や親などの扶養義務者から、必要な都度、直接生活費や教育費に充てるためにもらった財産には贈与税は課されません。ここでいう生活費とは、日常生活に必要な費用(食費や被服費、治療費など)のことです。教育費とは、学費や教材費などのことです。

 

生活費や学費という名目で財産をもらったとしても、不動産の購入費用に充てた場合には贈与税が課されることとなる、と国税庁のホームページに明記されています。

 

よって、住宅ローンの返済資金は贈与税対象外の財産にはあたらず、贈与税が課されます

2. 贈与の対象になった場合の贈与税の計算方法と計算例

贈与の対象になった場合の贈与税の計算方法と計算例
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

本項では、住宅ローン返済資金の援助を受けたときに贈与税が課される場合の、贈与税の計算方法を紹介します。また、実際の贈与税額を計算します。

 

2.1. 贈与税の計算方法と計算に用いる税率について

贈与税額は以下の算定式により求めます。

 

(1年間の贈与額-110万円)×税率-控除額

 

計算をするうえでは、次のポイントに留意してください。

 

  • 1月1日から12月31日の1年間における贈与額から基礎控除額110万円を差し引いた額に税率を乗じる
  • 誰から誰へ贈与されたかによって、次のように税率が異なる

 

■兄弟間、夫婦間、親から子への贈与で子が未成年の場合(一般税率)

基礎控除額後の課税価格

200万円以下

300万円以下

400万円以下

600万円以下

1,000万円以下

1,500万円以下

3,000万円以下

3,000万円超

税率

10%

15%

20%

30%

40%

45%

50%

55%

控除額

10万円

25万円

65万円

125万円

175万円

250万円

400万円

 

■直系尊属(父母や祖父母など)からの贈与で、子や孫が18歳以上の場合(特例税率)

基礎控除額後の課税価格

200万円以下

400万円以下

600万円以下

1,000万円以下

1,500万円以下

3,000万円以下

4,500万円以下

4,500万超

税率

10%

15%

20%

30%

40%

45%

50%

55%

控除額

10万円

30万円

90万円

190万円

265万円

415万円

640万円

※ 2022年3月31日以前の贈与については、20歳以上であること

出典:国税庁

 

2.2. よくあるケースでの贈与税の計算例

よくある2つのケースにおける贈与税額を計算します。

 

2.2.1. 所有権割合が夫100%の住宅の購入時に、頭金500万円を妻が負担するケース

妻から夫へ500万円を贈与したと考えられ、贈与税の課税対象となります。

 

税率は、一般税率を用います。

 

(500万円-110万円)×20%-25万円=53万円

 

贈与税額は53万円です。

 

2.2.2. 息子(35歳)の住宅ローンの返済資金に充てるため、親が1,000万円を援助するケース

親から息子へ1,000万円を贈与したと考えられ、贈与税の課税対象となります。

 

税率は、特例税率を用います。

 

(1,000万円-110万円)×30%-90万円=177万円

 

贈与額は177万円です。

3. 住宅ローン返済の援助にかかる贈与税を回避する方法

住宅ローン返済の援助にかかる贈与税を回避する方法
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

本章では、住宅ローン返済のために資金の援助を受けた際に、贈与税を回避する方法を4つ紹介します。自分に最も適している方法を活用してください。

 

3.1. 物件の持分割合と住宅ローンの負担割合をそろえる

住宅の所有権の持分割合と住宅ローンの負担割合が異なる場合に、贈与税が課されます。所有権の名義を、援助額に応じて援助者名義に設定し、持分割合と住宅ローンの負担割合を揃える必要があります

 

なお、「負担付贈与」という手段も有効です。負担付贈与は、贈与を受ける人が一定の債務を負担することを条件とした贈与のことをいいます。たとえば、夫婦で組んだペアローンを夫の単独債務に借り換えるときに、妻のローン残債に相当する所有権を夫に移転登記します。夫は負担付贈与を受けたことになり、贈与税の回避が可能です。

 

3.2. 金銭消費貸借契約を結ぶ

住宅ローンを返済する資金力がないときに、一時的に援助を受けることがあるかもしれません。

 

お金をもらう場合は贈与税の課税対象となります。これに対し、あとで返済する約束でお金を受け取る限りは、あくまでも「金銭消費貸借契約」でしかなく、贈与には該当しません。ただし、贈与でない証拠として、「金銭消費貸借契約書」を作成し、貸主・借主双方が保管しておく必要があります。

 

3.3. 暦年贈与の非課税枠を超えない範囲で援助を受ける

贈与税の非課税枠を活用し、非課税枠を超えない範囲で援助を受ける方法も有効です。

 

1月1日から12月31日までの1年間において、贈与される額が110万円以下であれば贈与税は課されません。たとえば、10年間にわたり毎年110万円をもらえば、1,100万円を非課税で受け取ることが可能です。

 

ただし、相続開始前3年分については相続財産への「持ち戻し」が行われ、相続税の課税対象となります。また、2022年12月に公表された与党の2023年度税制改正大綱において、持ち戻しの期間が「3年」から「7年」へと延長する方針が決定されました。したがって、できるだけ早期から始める必要があります。

 

また、正しいやり方で贈与を行わなければ、税務署から否認され、贈与税の課税対象となる恐れがあります。資金援助を行う都度、贈与契約書を作成して、証拠を残しておくことが重要です。暦年贈与について詳しく知りたい方は、「暦年贈与の改正・廃止はあるのか?有効活用のメリットと注意点」をご覧ください。

 

3.4. 相続時精算課税制度を活用する

相続時精算課税制度とは、2,500万円までの財産を受け継いだとき贈与税は課税されず、贈与者が亡くなったとき(相続時)に相続税の課税対象となる制度です。

 

相続時精算課税制度を利用すれば、2,500万円までは贈与税がかからずに資金援助を受けることができます。一度に多額の財産を移動することができるので、住宅ローンの返済資金を欲している方にとっては適している制度です。

 

当該制度を利用するためには、次の要件を満たす必要があります。

 

  • 贈与者:60歳以上の父母または祖父母
  • 受贈者:18歳以上の贈与者の直系卑属(子や孫など)

※ 贈与をした年の1月1日において

 

ただし、相続時精算課税制度を一度選択すると、それ以後の年度において暦年課税制度を選択することができなくなります。したがって、相続時精算課税制度を活用するかについては慎重に検討しなければなりません。

4. 住宅取得等資金の非課税特例制度

入居前の住宅購入資金の援助に適用できる非課税特例制度
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

生前贈与の非課税特例である「住宅取得等資金の非課税特例制度」を活用することで、贈与税が課されずに、多額の資金の援助を受けられます。

 

4.1. 住宅取得等資金の非課税特例制度とは

住宅取得等資金の非課税特例制度とは、父母や祖父母などの直系尊属から、マイホームの新築、取得、増改築のための資金援助を受けた場合、一定額までは贈与税が課されない制度です。住宅を取得する者の初期負担を軽減して、良質な住宅を将来に残していくこと、快適な暮らしができるよう住宅の質を向上させることが目的とされています。

 

4.1.1. 贈与税非課税限度額

贈与税が課されない限度額は次のように定められています。

 

贈与した年

質の高い住宅

左記以外の住宅(一般住宅)

2022年1月~2023年12月

1,000万円

500万円

 

質の高い住宅とは、次の3つのうちいずれかに当てはまる住宅のことをいいます。

 

  1. 断熱等性能等級4以上又は一次エネルギー消費量等級4以上の住宅
  2. 耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上又は免震建築物の住宅
  3. 高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上の住宅

※ 各等級等は、日本住宅性能表示基準の等級(具体の基準は評価方法基準(平成13年国土交通省告示第1347号))と同じものです。

引用:国土交通省

 

上記のいずれも、適合性を証明する所定の資料が必要です。

 

自身の居住予定の住宅が「質の高い住宅」に該当するかわからない方は、ハウスメーカーや不動産会社などの専門家に相談してください。

 

4.1.2. 受贈者の要件

次のすべての要件を満たす必要があります。

 

  • 贈与者の直系卑属である
  • 贈与を受ける年の1月1日において、18歳以上である
  • 贈与を受ける年の合計所得金額が2,000万円以下である(床面積が40㎡以上50㎡未満の場合は、1,000万円以下)
  • 2009年から2021年までに「住宅取得等資金の非課税特例制度」を利用したことがない
  • 贈与時に日本国内に住所を有している

4.1.3. 家屋の要件(新築の場合)

次のすべての要件を満たす必要があります。

 

  • 日本国内にある家屋である
  • 贈与を受ける者が主として居住の用に供する家屋である
  •  床面積が50㎡以上240㎡以下である(合計所得金額が1,000万円以下の場合は、40㎡以上)
  • 店舗等併用住宅の場合は、床面積の1/2以上が居住用である
  • 自身の配偶者、親族などから取得をした住宅以外、請負契約などにより新築した住宅以外である
  • 贈与を受ける年の翌年3月15日までに、住宅取得等資金の全額を利用して、マイホームを新築する
  • 贈与を受ける年の翌年3月15日までにその家屋に居住する、または3月15日までに遅滞なく当該家屋への居住が確実であると見込まれる(遅くとも同年12月31日までには居住)

 

4.2. この非課税特例を利用するときの注意点

住宅取得等資金の非課税制度を利用する場合、否認されないよう、以下の6つのポイントに注意する必要があります。

 

4.2.1. 住宅ローンの返済には使えない

住宅取得等資金の非課税制度を利用して資金の贈与を受けた場合は、全額を頭金として支払うか、もしくは一括購入の資金の一部に充てる必要があります。住宅ローンの返済資金に充てた場合、その金額には贈与税が課されます

 

4.2.2. 贈与のタイミングは物件の居住開始前

贈与を受けるタイミングは、住宅へ居住する前であることが条件です。居住開始後はすでに物件を購入していることとなるため、当該制度は利用できません。

 

4.2.3. 物件に居住するタイミングの期限がある

原則として、贈与を受ける年の翌年3月15日までに物件に居住する必要があります。ただし、定められた手続きを行うことで期限を延長できます。次のようなケースに当てはまる場合は、贈与を受ける年の翌年12月31日まで延長可能です。

 

  • 3月15日までに棟上げの状態まで工事が進んでいる場合
  • 3月15日までに工事が完成した、もしくは物件の引き渡しが完了した場合でも、何らかの事情により、3月15日までに居住が困難な場合

 

4.2.4. 期限内の申告手続きが必須

贈与を受ける年の2月15日から3月15日までに、住宅取得等資金の非課税の特例の適用を受ける旨を明記した贈与税の申告書を税務署に提出する必要があります。期限内に贈与税の申告を行わなければ、適用を受けることができず、贈与税の課税対象となるので注意してください。

 

4.2.5. 父母それぞれへの適用はできない

限度額は、贈与を受ける者(受贈者)を基準として決まります

 

たとえば、父と母それぞれから住宅取得のための資金として1,000万円ずつ贈与を受けた場合、合計2,000万円が非課税となるわけではありません。どちらかの1,000万円の贈与には贈与税が課されます。

 

贈与税の非課税枠を増やしたいという場合には、物件を夫婦共有名義として、夫と妻双方が直系尊属から1,000万円(一般住宅の場合は500万円)の贈与を受ける方法があります。

5. 夫婦間の住宅資金贈与には配偶者控除を利用できる場合も

夫婦間の住宅資金贈与には配偶者控除が適用できる場合も
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

住宅を取得するために、夫婦間で資金の贈与をしたいと考えているときには、配偶者控除を利用できる可能性があります。居住用不動産または居住用不動産を購入するために金銭の贈与を受けた場合、基礎控除110万円を除いて2,000万円までは贈与税が課されないという特例です。この制度も住宅ローン返済の資金に充てることはできません。

 

次の要件に当てはまる場合に、利用可能です。

 

  1. 婚姻期間が20年以上ある夫婦である
  2. 配偶者より贈与される財産が、居住用不動産または居住用不動産を購入するための金銭である
  3. 贈与を受ける年の翌年3月15日までに、贈与によって取得した居住用不動産または贈与された金銭で購入した居住用不動産に贈与者が居住し、今後も住み続ける見込みがある

まとめ

住宅ローン返済や住宅購入時に資金援助を受ける際の「贈与税」に関する注意点を紹介しました。

 

贈与税の負担を軽減、あるいは回避する方法として、以下の方法が考えられます。

 

  • 資金援助を受けた額に相当する物件の所有権を援助者の名義に変更する
  • 贈与税の非課税枠を活用して、毎年110万円以内の資金援助を受ける
  • 相続時精算課税制度の活用を検討する
  • 住宅取得等資金の非課税特例制度を活用する

 

ただし、生前贈与に関する非課税の特例については、政府・与党の税制改正大綱において、「相続税と贈与税の一体化」「資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築」がうたわれており、今後、制度が大きく変わる可能性があります。