住宅ローンの借入期間は35年以下のものが主流ですが、40年以上の商品も一部の金融機関で契約できるようになりました。しかし、一般的にはデメリットが大きくあまりおすすめできません。ただし、例外的にメリットがあるケースもあります。本記事では、「40年以上の住宅ローン」の一般的なデメリットを解説したうえで、それでもメリットがあるといえるのはどんな場合か、どのような人に向いているか、どの金融機関で取り扱われているかについて解説します。
40年以上の住宅ローンのデメリットと、例外的にメリットがあるケースとは (※写真はイメージです/PIXTA)
1. 最長借入期間40年以上の住宅ローンが近年増加の傾向
2. 「40年住宅ローン」を選択することの一般的な4つのデメリット
2.1. 利息負担が増えて総返済額が大きくなる
2.2. 設定金利が高い場合が多い
2.3. 定年後も返済が続く可能性がある
2.4. 金融機関やローン商品の選択肢が少ない
3. 「借入期間」と「借入年齢」の平均値
4. 住宅ローン40年と35年の比較シミュレーション
5. 場合によっては「40年住宅ローン」のメリットとなりうる5つの点
5.1. 月々の返済負担を抑えられる
5.2. 借入期間が短い場合と比べて審査に通りやすい
5.3. 購入する物件をグレードアップできる
5.4. 返済ペースを調整しやすい
5.5. 団信に長期間加入できるため生命保険料の節約になる
6. 「40年住宅ローン」を組んで後悔しないための3つのポイント
6.1. 購入予定の物件が自分に見合っているのか再検討する
6.2. できるだけ若いうちに借り入れる
6.3. 余裕があるときは繰り上げ返済を行う
7. 「40年以上の住宅ローン」が向いているのはどんな人か?
7.1. 若い人
7.2. 親子リレー返済を予定している人
8. 「40年の住宅ローン」を取り扱う金融機関の例
まとめ

1. 最長借入期間40年以上の住宅ローンが近年増加の傾向

最長借入期間40年以上の住宅ローンが近年増加の傾向
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

これまで、住宅ローンの借入期間は最長で35年というのが一般的でした。しかし、近年はより長期の商品が登場しています。

 

「フラット35」を提供している住宅金融支援機構では、2009年から長期優良住宅の認定を受けた物件に対して「フラット50」という借入期間を36年から50年までの間で設定できる商品が提供されています。

 

一部の金融機関もそれに追随して、借入期間が最長で40年以上の商品の取り扱いを開始しました

 

40年以上の商品を希望する際は、あらかじめ、取り扱っている金融機関を確認するようにしてください。取扱金融機関の一部を後述の「8. 『40年の住宅ローン』を取り扱う金融機関の例」で紹介します。

2. 「40年住宅ローン」を選択することの一般的な4つのデメリット

40年住宅ローンを選択する4つのデメリット
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

借入期間を40年以上とする場合、一般的にはデメリットが大きいことを知っておく必要があります。デメリットは以下の通りです。

 

  • 利息負担が増えて総返済額が大きくなる
  • 金利が高い場合が多い
  • 定年後も返済が続く可能性がある
  • 金融機関やローン商品の選択肢が少ない

 

それぞれについて解説します。

 

2.1. 利息負担が増えて総返済額が大きくなる

借入期間が長くなれば支払利息として払う金額が大きくなり、総返済額も増加します。たとえば、「5,000万円を金利1%で借り入れた場合」で考えると、「借入期間が35年」のケースに比べて「借入期間が40年」のケースは、総返済額が約140万円増えます。詳しくは後ほど紹介するシミュレーションをご覧ください。

 

総返済額を抑えたいのであれば、借入期間は短いほうが好ましいのです。

 

2.2. 設定金利が高い場合が多い

一般的に、「借入期間が40年以上の商品」は、「借入期間が35年以下の商品」に比べて金利が高いです。たとえば、「フラット35」と「フラット50」の最頻金利を比較すると、0.45%の金利差があります。

 

「借入期間が40年以上の商品」のほうが設定金利が高い分、多くの利息を支払うことになります。

 

2.3. 定年後も返済が続く可能性がある

住宅ローンを借り入れるタイミングが遅く借入期間も長いと、返済が定年後も続く可能性があります。住宅ローンを借り入れるときは、完済時の年齢を考慮する必要があります。基本的に、定年までに完済するのが望ましいとされています。

 

定年後は、現役時に比べて経済的余裕が少ないです。借入期間を長くすると月々の返済額が少なくなるのは魅力ですが、老後にも同額を返済し続けられるかどうかを熟慮しておくことをおすすめします。

 

2.4. 金融機関やローン商品の選択肢が少ない

すべての金融機関が40年以上の商品を取り扱っているわけではありません。また、商品のラインナップも限られています。

 

多くの金融機関では35年までの商品しか取り扱いがなく、40年以上の借り入れができる金融機関は少数です。取り扱いのある金融機関については、後述する「8.『40年の住宅ローン』を取り扱う金融機関の例」を参考にしてください。

 

住宅ローンは、通常であれば金利タイプや金利、諸費用などを比較検討して自分に合ったベストなものを契約するものです。しかし、40年以上の商品だと、金融機関・商品の選択肢がいずれも限られてしまいます。結果として、自分に合うものを選びにくくなります。

 

3. 「借入期間」と「借入年齢」の平均値

借入金の借入期間や借入年齢の平均値を見てみよう
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

40年以上の返済期間の住宅ローンがおすすめできないことは、データによっても裏付けられます。すなわち、そのような長期のローンを組んだ人がきちんと返済完了できるかは、データがなく未知の領域といわざるをえないということです。

 

国土交通省の令和3年度の「住宅市場動向調査報告書」によると、住宅の種別ごとの借入期間の平均値は以下の通りです。なお、新築の物件はいずれも「平均借入期間」が30年以上あります。また、比率として多いのは区分のうち「35年以上」です。

 

種類

平均借入期間

注文住宅

32.9年

土地

34.2年

分譲戸建住宅

34.1年

分譲マンション

32.0年

中古戸建住宅

29.2年

中古マンション

29.9年

リフォーム住宅

11.8年

 

また、同調査の「借入時の平均年齢」は以下の通りです。新築の物件の借入時の平均年齢は40歳程度ですが、比率として多いのは区分のうち「30歳代」となっています。

 

種類

平均年齢

注文住宅

44.0歳

分譲戸建住宅

38.4歳

分譲マンション

44.3歳

中古戸建住宅

46.9歳

中古マンション

46.4歳

リフォーム住宅

60.4歳

 

前述した「40年以上のローンのデメリット」を考慮すると、住宅ローンは可能であれば借入期間を35年までとすべきです。実際に、多くの方が借入期間を35年以下としているからこそ、調査がこのような結果となったと推察できます。

4. 住宅ローン40年と35年の比較シミュレーション

住宅ローン40年と35年の比較シミュレーション
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

次に、なぜ、借入期間を35年以下としたほうがよいのかをシミュレーションを通じて解説します。

 

以下の条件で、「35年ローン」と「40年ローン」を契約したときの、それぞれの月々の返済額・利息総額・返済総額を比較します。

 

■条件

  • 借入金額:3,000万円
  • 金利:1.5%(2022年の固定金利の平均値)
  • 返済方法:元利均等

 

 

35年ローン

40年ローン

月々の返済額

91,855円

83,151円

利息総額

8,579,007円

9,912,637円

総返済額

38,579,007円

39,912,637円

 

「40年ローン」の場合は、「35年ローン」に比べて月々の返済額は減少するものの、支払う利息が約133万円増加しています。それに伴って総返済額も増加していることがわかります。実際には、40年以上の借入期間の金利は通常よりも高いことが多いため、総返済額はより増大すると考えられます。

 

借入期間を長くして月々の返済負担を軽減することも大切なことですが、そうなるとトータルの支出が増えます。また、期間が40年以上の商品は、取り扱っている金融機関が限定的で、自分に合ったものを選びにくいのです。

 

35年以下の商品ならバリエーションがあって自分に合ったものが選びやすく、40年以上の商品に比べて総返済額を減らすことができます。住宅ローンを組むなら、可能な限り35年以下の借入期間とすることをおすすめします。

5. 場合によっては「40年住宅ローン」のメリットとなりうる5つの点

40年住宅ローンを選択する5つのメリット
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

以上の通り、一般的には、借入期間を40年以上とすることはデメリットが大きいといわざるをえません。しかし、場合によってはメリットとなることがありえます。メリットとなりうる点は以下の5つです。

 

  • 月々の返済負担を抑えられる
  • 短期の借り入れに対して審査に通りやすい
  • 購入する住宅のグレードを上げられる
  • 返済ペースを調整しやすい
  • 団信に加入している間はほかの生命保険料を節約しやすい

 

それぞれについて解説します。

 

5.1. 月々の返済負担を抑えられる

借入期間を長くすると、支払利息が増えて総返済額は大きくなるものの、月々の返済額は少なくなります。つまり、月々の返済負担を抑えることが可能です。

 

返済方法を元利均等として、固定金利1%で5,000万円借り入れた場合、総返済額と月々の返済額は以下のようになります。

 

借入期間

総返済額

月々の返済額

30年

5,790万円

約16.1万円

35年

5,928万円

約14.2万円

40年

6,069万円

約12.7万円

 

借入期間が長くなり分割回数が増える分だけ、1回あたりの返済額が減少しているのがわかります。

 

月々の返済負担を軽減できるため、子育てなどにお金がかかっていたり収入が少なかったりするなどの理由で、経済的な余裕が少なくても返済がしやすいというメリットがあります。

 

5.2. 借入期間が短い場合と比べて審査に通りやすい

住宅ローンの審査では、収入に対する返済額のバランス(返済負担率)も審査基準の1つとなることが多いです。

 

国土交通省の令和3年度の「民間住宅ローンの実態に関する調査」によると、94.6%の金融機関が「返済負担率」を審査の項目にしていると回答しています。なお、返済負担率とは年収に占める返済額の割合です。

 

借入期間が短かければ月々の返済額は多くなり、返済負担率は高くなります。反対に、借入期間が長ければ月々の返済額が少なくなり、返済負担率が低くなります。

 

金融機関からすれば、返済負担率が低ければ返済が滞りにくいと判断できます。したがって、借入期間が短いときよりも審査に通りやすいです。

 

5.3. 購入する物件をグレードアップできる

月々一定の金額を返済していく場合は、借入期間を長くすることでより多くの金額を借り入れることができます。借り入れる金額が大きければ、購入する物件のグレードを上げることが可能です。

 

5.4. 返済ペースを調整しやすい

借入期間が長ければ、返済ペースを調整しやすいのもメリットとされています。

 

住宅ローンは、基本的に繰り上げ返済ができます。要するに、借入期間はあとから短縮することが可能です。逆に、借入期間をあとから延長することはできません。繰り上げ返済については後述します。

 

親子リレー返済を契約する場合に、返済義務を引き継ぐタイミングの調整がしやすいというメリットもあります。

 

5.5. 団信に長期間加入できるため生命保険料の節約になる

住宅ローンの借り入れ中は団体信用生命保険の保障を受けることが可能です。よって、ほかの生命保険に加入する必要がなくなり、保険料を節約することができます。

 

団体信用生命保険とは、債務者が債務を全額返済しないうちに死亡・高度障害などになったときに、保険金から金融機関に債務を弁済する保険です。住宅ローンを借り入れるときや、借り換えをするときにだけ契約できます。ほとんどの金融機関が、団体信用保険への加入を融資の条件としています。

 

住宅ローンの契約者は団体信用生命保険に加入することになるため、カバーできている保障について、ほかの生命保険を契約する必要はありません

 

6. 「40年住宅ローン」を組んで後悔しないための3つのポイント

40年住宅ローンを組んで後悔しないための3つのポイント
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

40年以上のローンを契約して後悔しないためには、どのようなことに留意すればよいのでしょうか。

 

6.1. 購入予定の物件が自分に見合っているのか再検討する

まずは、自分の身の丈にあった金額の物件かどうか再検討しなければなりません。その物件は、本当に自分の収入に見合ったものなのかということです。

 

返済負担率が許容範囲内でも、40年以上も返済を続けていくのは簡単なことではありません。また、いくら住宅が高価なものだとはいえ、40年もの間、住宅ローンを組むというのは通常では考えにくい状況です。

 

物件を購入する前に、「収入に対して妥当な金額の物件かどうか」や「40年以上にわたって住宅ローンを返済することに無理はないかどうか」を冷静に考えてみる必要があります。

 

6.2. できるだけ若いうちに借り入れる

住宅ローンの審査には「完済時の年齢」が考慮されます。40年ローンを契約したいなら、可能な限り若いうちに住宅ローンに申し込むべきです。

 

定年退職すると、たとえ安定した職に就いていても返済能力が大幅に落ちるのが一般的です。そのため、完済時の年齢が高齢となる状況でローンの申し込みをしても、審査に落ちてしまう可能性が高いといえます。

 

「40年以上のローン」を契約するなら、申し込みは若いうちに行うべきです。

 

6.3. 余裕があるときは繰り上げ返済を行う

ローンは基本的に繰り上げ返済が可能で、住宅ローンも繰り上げ返済の対象に該当します。ボーナスなどで資金に余裕があるときは、繰り上げ返済をして借入期間を短くすることをおすすめします

 

繰り上げ返済とは、元金(借り入れた金額)の一部あるいは全額を前倒しして返済することです。繰り上げ返済をすれば、返済した元金部分に対する利息を軽減できます。

 

ただし、金融機関によって繰り上げ返済に諸費用がかかることがあります。

7. 「40年以上の住宅ローン」が向いているのはどんな人か?

40年以上の住宅ローンが向いているのはどんな人?
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

一般的にはデメリットが大きい40年以上のローンですが、向いているケースもあります。

 

7.1. 若い人

40年以上の住宅ローンは、年齢の若い方に適しています。

 

借り入れをするときの年齢が20代前半程度と若ければ、40年ローンを組んでも定年前後に完済ができる見込みが高いです。もし、完済時に定年を迎えていても、まだ就労が可能な年齢なので、収入を得られる見込みがあります。このため、ほかの世代よりもデメリットが少ないといえます。

 

40年以上のローンであれば月々の返済額を抑えられるため、資金を子育てや貯蓄などに回す余裕ができます。

 

7.2. 親子リレー返済を予定している人

親子リレー返済をする方にも、40年以上のローンは適しています。

 

親子リレー返済のメリットは、借入可能額が増えたり、住宅ローン控除を親子それぞれの負担割合に応じて適用できたりする点です。

 

住宅ローン控除は借り入れの年末残高、もしくは取得対価のいずれか少ない金額に0.7%を乗じた金額を最長13年間にわたって所得税額から控除する制度です。とはいえ、控除額の上限まで所得税を課されている方は少数です。

 

したがって、親子それぞれに住宅ローン控除を適用すれば、控除の恩恵を無駄なく利用しやすくなります

8. 「40年の住宅ローン」を取り扱う金融機関の例

40年の住宅ローンを取り扱う金融機関の例
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

40年以上の借り入れができる商品は、2022年12月時点において、大手都市銀行や主要ネット銀行では取り扱いがなく、地方銀行や信用金庫、労働金庫協会の一部が取り扱っています。

 

取り扱っている金融機関の一部を以下にまとめました。

 

金融機関名

金利タイプ

借入期間

ARUHI

全期間固定金利(フラット50)

変動金利

当初固定金利型

36年から50年(フラット50)

10年から40年

阿波銀行

変動金利

固定金利

1年から40年

関西みらい銀行

変動金利

固定金利

1年から40年

東海ろうきん

変動金利

固定金利

全期間固定金利(有担保のみ)

有担保:40年以内

無担保:25年以内

南都銀行

変動金利

固定金利

40年以内

 

上記のほかにも、北日本銀行や北洋銀行、みちのく銀行、東邦銀行、北陸銀行、伊予銀行、スルガ銀行、西日本シティ銀行、トマト銀行、香川銀行、熊本銀行、琉球銀行等が対応しています。

まとめ

住宅ローン40年まとめ
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

住宅ローンの借入期間は35年以下のものが主流ですが、40年以上の期間を設定可能な商品も一部の金融機関で契約できるようになりました。

 

「35年以下のローン」と比較して、「40年以上のローン」は月々の返済額を少なくすることができます。加えて、繰り上げ返済を活用して返済のペースを調整しやすく、ローンの審査に通りやすくなるなどのメリットがあります。これに対し、デメリットは、総返済額の増加などです。

 

メリット・デメリットを踏まえて、無理のない自分に適したローンを契約する必要があります。