贅沢三昧から一転…A氏が「老後破産」に陥ったワケ
このように、長いあいだ出世レースも順調であったA氏だが、転機が訪れる。派閥の長であった理事長が退任し、「出向」の2文字がA氏に突きつけられたのだ。
出向先は同信用金庫の関連子会社で、ポジションは部長に。待遇もエリア長から役職定年再雇用扱いとなり、年収もダウンした。
しかしながら、A氏を慕う元部下職員は多く、繁華街での飲食癖はピークより減少しつつも、収入以上の出費が続いた。幸いA氏は地の人間であり、住宅ローンは無かったため、やり繰りに支障をきたすことはなかった。
60歳代半ばになったA氏は、出向先である関連子会社にて社長となった。身体的な衰えからゴルフ三昧や飲み歩き生活とはいかなくなったものの、気づけば貯蓄も枯渇。
社長にも定年があり、その後A氏も勇退となったが、本来なら孫に囲まれた穏やかな老後生活を過ごす余生のはずが、A氏には老後資金が残されていなかった。つまり、「老後破産」に陥っていたのである。
A氏は現役時代に築き上げたコネクションをつてに、地元中小企業にて就労生活をすることとなった。
A氏はいま70歳代となり、コロナ禍も相まって繁華街での飲食癖は収まっているものの、生活費を一定水準以下に抑えることができていない。
退職金と年金のみでの生活は、残念ながら生活は困窮してしまうばかりである。
優秀なA氏に欠落していた「老後資金準備」の視点
A氏の半生を振り返ると、「贅沢な生活慣れ」「本来できたはずの老後の備え不足」「出世街道から出向」など、優秀な人物であったがゆえのワナに嵌った感が否めない。
また、A氏の場合はその人望の厚さから老後も地元中小企業にて就労できたものの、通常は年齢的にも望み通りの就労先を探すこと自体が困難と思案される。
ゴルフ三昧や繁華街での飲食自体は否定しない。しかし、老後を見据えた資産形成を行いつつライフプランを熟慮し、ときには立ち止まり、信頼できるアドバイザーに相談しながら「老後破産」は回避したい。みな優秀な人財なのだから。
加藤 勇
FP Office
ファイナンシャル・プランナー