日本の金融教育は世界的にみて圧倒的に遅れていると言わざるを得ません。日本では義務教育における金融教育の授業は中学3年生に1~5時間程度です。しかしながら、例えば英国では小学校の全学年で学習する機会があります。年間2,000名以上の子どもたちに出張授業という形で金融教育プログラムを提供する盛永裕介氏は、子どもたちのお金に関する知識の低さは将来のキャリア選択にも影響すると指摘します。子どもたちが金融リテラシーを身に着けることで将来の選択肢をどのように広げられるか? 実際の事例をもとに解説します。
「他の職業の方が自分に向いている?」キャリア教育に金融教育を取り入れるべき理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

「ゲームの課金がやめられないメカニズム」を知ること自体が抑止力に

お金を無駄遣いしてしまうことは、「合理的な意思決定」ができていない可能性が高いです。そこで、「なぜ無駄遣いをしてしまうのか?」について、生徒と対話を行いました。

 

「アプリゲームはなぜ課金をやめられないのか?」という問いかけに対して、生徒は「アプリゲームは課金すればある程度強くなって楽しいし、欲しいキャラクターがいるから100円でも思わずお金を使ってしまう」と答えてくれました。課金を誘発する要因については「少額から始められること」「一度投資をすると後に引けなくなること(サンクコスト効果)」の2点が挙げられるという研究があります7)

 

実際のアプリゲームを題材に、ガチャ課金の少額取引システムについて、またサンクコスト効果はどこに潜んでいるのかを解説しました。

 

最後にこの2時間のまとめとして、「夢を実現するために、今の自分にできること」について考えてもらうと、「今回興味を持った職業についてもっと調べてみる」「まずはお金を無駄遣いしないようにする」などの意見が出てきました。家計管理と職業に関する関心が高まり、これからどのくらいお金がかかるのか? 自分はどのような職業に向いているのか? について理解できた様子でした。

生徒の50%が「自分に向いている職業を知ることができてよかった」

授業後に自由記述のアンケート実施したところ、「自分に向いている職業を知ることができてよかった」と記述した生徒は50%でした。序論でも述べましたが、これからの時代は自分の興味や関心、潜在能力など見極めたうえで進路選択をすることが求められます。

 

そのようななかで自分に向いている職業を見つけられた生徒がいたことは、今回の試みは有効性が高かったと言えます。また「自分の夢を実現するために、どれくらいのお金が必要なのか知ることができてよかった」と記述した生徒は43%でした。

 

お金や家計について考える機会が少ない中学生にとって、自分の将来と関連づけて金融教育を行うことで、中長期的な視点でお金について考えることの必要性を理解することができたのではないかと考えられます。

キャリア教育に金融教育を取り入れることで相乗効果が

今回の授業は、キャリア教育に金融教育を取り入れた授業を展開することで、なりたい自分や職業を見つけるきっかけになるのではないかという仮説が実証されました。

 

子どもたちのキャリアデザインと切っても切り離せない「お金のテーマ」をキャリア教育に取り入れることは、「お金」と「将来の夢」の両者をより身近に自分事として捉えることを促します。「もっと職業について調べてみたい」「将来についてもっと考えたい」という、主体的に進路を選択するためのきっかけになるでしょう。

 

出典:

1) 国立青少年教育振興機構(2015)「高校生の生活と意識に関する調査」, pp.33

2) 内閣府(2019)「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」, pp.5-20

3) 佃直毅 (1988)「進路指導を学ぶ」, 有斐閣, pp.12-15

4) 経済産業省(2022)「未来人材ビジョン」, pp.75

5) 金融広報中央委員会「金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは-」,2022年11月2日

6) 文部科学省(2019)「平成30年度子供の学習費調査」, pp.1

7) King, D.L., & Delfabbro, P.H.(2018)「Predatory monetization schemes in video games (e.g. ʻloot boxesʼ)and internet gaming disorder.」, Addiction, pp113