日本の金融教育は世界的にみて圧倒的に遅れていると言わざるを得ません。日本では義務教育における金融教育の授業は中学3年生に1~5時間程度です。しかしながら、例えば英国では小学校の全学年で学習する機会があります。年間2,000名以上の子どもたちに出張授業という形で金融教育プログラムを提供する盛永裕介氏は、子どもたちのお金に関する知識の低さは将来のキャリア選択にも影響すると指摘します。子どもたちが金融リテラシーを身に着けることで将来の選択肢をどのように広げられるか? 実際の事例をもとに解説します。
「他の職業の方が自分に向いている?」キャリア教育に金融教育を取り入れるべき理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

子どもたちの個性を6つのタイプ(現実的、研究的、芸術的、社会的、慣習的)に分類

1時間目のはじめに、まず私は「将来どんな仕事をしたいか決まっている人はいますか?」と問いかけました。手を挙げたのはほんの数名程度だったので、「手を挙げなかった人は、どんなことで迷っていますか?」と追加で問いかけると、生徒から「自分に向いている仕事がわからないから決められない」「職業について全然知らない」「将来にあまり興味がない」などの声が上がりました。

 

この回答から、将来の夢を持っていない生徒が一定数いること、そして彼らは自分の興味や潜在的な能力に合った職業は何か?よく理解できていないことがわかります。

 

【Work1】自己分析

 

そこで、最初の【Work1】では、自分の性格や興味のある事柄を知るところから始めました。 (1)好きな科目 (2)趣味や特技 (3)クラブ活動 (4)将来の夢 (5)興味があること (6)長所と短所、以上6点をワークシートに記入し、自分がどのような人物なのかを認識します。

 

Work2】6つのタイプ(現実的、研究的、芸術的、社会的、慣習的)に分類

 

そして次のWork2で、アメリカの心理学者ジョン・ホランドが開発した「ホランドの職業選択理論」で定義されている6つのタイプ(現実的、研究的、芸術的、社会的、慣習的)から、自分はどのタイプに当てはまるかを選択します。【Work1】の結果をもとに自分のタイプを1つ選択した後、私が作成した「仕事早見表」を使用して、自分のタイプに合った仕事の中から「興味のある職業ベスト3」を決定します。

 

例えば、現実的タイプに分類される人は、ものを扱うことや仕組み・手順の道筋がはっきりしている作業を好むと言われており、プログラマーや料理人、消防士のような職業適性があると考えられます。その後、現実タイプの職業の中から、興味のある職業ベスト3を決定することで、それぞれの職業への関心を高めていきます。

「自分と向き合うこと」と「視野を広げ、様々な職業ご検討する」重要性

1時間目終了後、私に「自分は将来看護師になりたいと思っていたけれど、他の仕事の方が向いているかもしれない」と声をかけてくれた生徒がいました。その生徒は看護師の母親を見て育ち、なんとなく興味を持っていたそうです。しかし、今回の授業で自分のタイプに合った職業を知ることができ、他の職業も検討してみたくなったと話してくれました。

 

将来の夢をすでに決めていた生徒も、改めて自分自身と向き合い様々な職業観に触れることで、新たな発見に繋がるのです。

学習意欲がグッと高まるお金の4択クイズ

2時間目は、お金との付き合い方について学び、夢を実現するためには今からどのようなことができるかを考えました。

 

まず、人生でどのくらいのお金が必要か? どのくらいのお金を稼ぐことができるのか? 大学までの学費がどのくらいかかるのか? などを4択クイズで考えていきます。特に学費に関しては、文部科学省「平成30年度子供の学習費調査」の結果を示すと6)、「学費ってこんなに高いのか!?」「将来こんなに払えるのかな…」という声が上がりました。

 

また、中学1年生から就職するまでにどのくらいのお金が必要なのか、看護師や警察官、医師、薬剤師、スポーツ選手などの職業を例に取り上げると、多くの生徒がその金額の大きさに驚愕していました。「こんな大金はどのように準備したらいいでしょうか?」と問いかけると、生徒は「しっかりと働いて稼ぎたい」「コツコツとお金を貯めていきたい」と答えてくれました。

 

続けて「コツコツとお金を貯められている人はどのくらいいますか?」と問いかけると、「お年玉は貯めているけど…」と多くの生徒は自信がない様子でした。

お金を可視化して気がつく自分の消費傾向

さらに【Work3】では、現在の自分のお金の使い方について見直しました。この1年間で、自分のお金で買ったものと自分以外の人から買ってもらったものを覚えている範囲で書き出し、それぞれ買った理由を記入します。

 

多くの生徒は、スマートフォンやゲーム機器などを自分以外の誰かに買ってもらい、自分のお金ではアイドルのグッズやアプリゲームの課金、カードゲーム、文房具を購入している様子でした。買ったものを書き出してみると、生徒から「意外とお金使っているな」「特に理由もなくものを買っているかもしれない…」などの反応がありました。