不動産業者に騙される投資家は多い
「不動産業者に騙される」と聞くと、いわゆる「原野商法」をはじめとする詐欺、あるいは詐欺まがいの悪徳商法を想像するかもしれませんが、ここでのテーマはそういった類のものではありません。
普通の不動産業者が投資家に営業をする際のポジショントークや、物件広告のなかで、物件のメリットや投資利益の可能性を強調し、不利益となる部分やリスクを極力わかりにくくするという、不誠実な営業手法のことを指しています。
ただ、広告表示や営業トークにおいて、商品のメリットを強調しながら、デメリットになるべく触れないようにする手法は、不動産に限らずよくあることで、不動産業者だけが特別に悪質だというわけでもありません。
情報の隠蔽や改ざんといった違法行為は除いて、営業トークを丸呑みにし、デメリットやリスクに目を配れないのだとしたら、問題はむしろ「知識を備えていない投資家」にも非があるのではないでしょうか。
筆者がこれまで受けた相談から見えた「騙されやすい投資家」の特徴ですが、明確なのは「不動産業者からの情報や提案を鵜呑みにし、そのまま購入に踏み切ってしまう人」です。いいかえるなら「勉強や情報調査をしない人」や「物件を精査せず、営業マンを信用してしまう人」です。
なかには「いや、自分は不動産投資の本も読んだし、ネットでも情報収集をしている」と反論する方もいるでしょう。
もちろん、本やネットの情報も、学ばないよりできるだけ学んだほうがいいでしょう。しかし、「自分にとってどんな投資物件が最適なのか」また「提案された候補物件の適正価格自体のよしあし」といった具体的な研究や査定を行うことができず、一般的・概論的な知識をえて満足しているケースが、とても多いのです。
騙されやすい投資家の特徴「5つ」
「騙されやすい人」について、詳細に見ていきましょう。
①表面利回りだけ見て投資判断をしてしまう
「表面利回り」とは、「物件価格/家賃収入」のことで、不動産の広告等にある「想定利回り〇%」との記載は、ほとんどがこれです。
しかし、管理費や固定資産税といった固定的な出費も、必ず家賃収入からまかなわなければなりません。
同じ表面利回りだとしても、RC造と木造とでは経費率が大きく異なります。
したがって、投資判断は、それらの固定的支出を差し引いたあとの実質収入による「実質利回り」で行わなければならないのです。表面利回りしか見ない人は「騙されやすい人」の典型です。
②「節税になる」という理由だけで投資してしまう
不動産業者がよく使うセールストークに、
「不動産投資は減価償却費を費用として計上でき、会計上の赤字は給与所得等と損益通算ができるため、節税になります」
というものがあります。
これ自体はウソではありません。しかし、いくら節税できても、肝心の不動産投資の収益が赤字であれば本末転倒、なんの意味もありません。
資産価値より債務が大きくなるような物件では、いくら目先の節税ができても、年々キャッシュが減って債務超過となり、将来的に「売るに売れない状態」に陥ってしまいます。
③将来的な「家賃収入の減少」を考慮していない
物件によっては、利回り計算の根拠となる家賃が、そもそも周辺相場よりも高い想定になっているケースがあります。
たとえば、現在一部屋5万円の家賃が得られても、それを支払っている入居者が10年前から住んでいたとしたらどうでしょう。退去後も同じ家賃が得られるとは限りません。入居者の退去後は、物件の老朽化等によって、以前と同じ家賃設定ができないのが一般的です。
また、建物は古くなるほど「空室リスク」が高まります。それらを見込まないまま提示される収支シミュレーションを信じ、あとで頭を抱える投資家は少なくありません。
購入から10年後を想定したうえで、適正な家賃設定をシミュレーションしなければ、満室運営はできません。
④定期的に発生する「修繕費」を考慮していない
不動産業者が提示する収支シミュレーションには、シミュレーション表自体に修繕費が含まれておらず、欄外に薄く小さな字で「その他、修繕費が必要になる場合があります」など補足されているだけ…ということもあります。あるいは、シミュレーション表に修繕費が含まれていても、相場から見て過少な場合もよくあります。
修繕費は、木造とRC造といった建物の構造・状態によっても異なります。その点を踏まえて適正な修繕費を見込むことが必要なのですが、修繕予算の組み方を知らない投資家が多く散見されます。
⑤管理会社に任せっぱなしで経費を精査しない
管理会社に管理を任せること自体は一般的ですが、管理内容や費用の適正性を把握しないのは問題です。
管理業者から「外壁塗装をしておきましょう」「キッチンを丸ごと換えたほうがいいですよ」「入居者を入れるために家賃を下げましょう、ADを付けましょう」等の提案を受けたときに、適正性を精査せず、いいなりになってしまう投資家は、やはり「業者のカモにされる」といえるでしょう。
「ラクして儲けたい」気持ちが「騙されるスキ」を生む
上述したような「騙されやすい投資家」には「ラクに儲けたい」「手間を掛けずにお金を得たい」という気持ちが潜んでいるといえます。
世間からは「不動産投資=不労所得」といった目で見られることも多く、あたかも購入しただけで収益が得られるイメージを持たれがちですが、それはまったく正しくありません。「資産10億円、年間キャッシュフロー3,000万円」になった人がいるとしたら、そこに至るまでの投資家自身の勉強や不断の努力があってこそです。
販売業者は、投資家の「ラクに儲けたい」という気持ちを見透かし、少しでも高く売ろうとして営業トークを展開していることを忘れないでください。
不動産投資を成功させるには、その物件に、販売価格に見合う収益性があるのかどうかを見極めなければなりません。言い方を変えれば、その物件が「相場に見合った適正価格かどうか」判断するということです。一定の収益性がある物件を、相場価格よりも安く購入できれば、その時点で「勝ち」が確定しますし、逆に、相場価格より高く買ってしまえば、その瞬間に「負け」が確定するのが不動産投資なのです。
そして、不動産業者が提案してくる収益性と価格の適正性の見極めは、実は慣れてくればさほど難しくなく、ある程度の学びを惜しまなければ、誰でもできることなのです。
適正な投資のためにやるべきこと「5つ」
投資物件が適正な価格で販売されているどうかを見極めるには、以下の点をチェックし、周辺の同程度の築年数、同規模の物件における相場と比較します。
①実質利回りを確認
先に述べた通り、実質利回りは、家賃収入から管理費、固定資産税などの必ず出ていく固定コストを差し引いた実質収入を基準にして、物件の販売価格で割り戻します。管理費、固定資産税などの金額は、不動産業者に確認すればわかります。
②家賃設定の適正性を確認
候補物件の周辺で、同程度の広さ・間取り・築年数の賃貸物件が、いくらの家賃で貸し出されているのかが、家賃相場となります。これは、不動産業者なら利用できるデータベース「REINS」で簡単に調べることができます。つまり、候補物件の販売業者に依頼して家賃相場を調べもらえばいいのです。それを渋るような販売業者とは取引しないほうがいいでしょう。
③修繕予算の適正性を確認
シミュレーションに修繕予算を含めることは当然ですが、それが適正な価格であることも必要です。販売不動産会社に聞いても、低めに見積もられる可能性もあるので、第三者的な立場のリフォーム専門の業者に確認を依頼するなどして客観的な予算を把握し、それを含めた収益性のシミュレーションを行います。
④想定する出口価格の適正性を確認
将来必ず迎える「出口(売却)」をどう考えるのかも、不動産投資では最も重要なポイントです。販売業者に依頼し、REINSを使って周辺の類似物件の売却相場を調べてもらえば、ある程度把握できます。
たとえば、購入候補が築10年のアパートで、10年後には売却を予定するのなら、周辺で、築20年のアパートの取引相場を調べてもらえばいいのです。将来のことなので確実とはいえませんが、ある程度の目安はわかります。
⑤銀行融資条件の適正性を確認
不動産物件そのものの話ではありませんが、金利、借入額、返済期間などの融資条件は、キャッシュフローに大きな影響を与えます。もし販売物件の不動産業者が融資銀行を紹介してくれるとしても、いきなり飛びつくのではなく、自分でも数行の銀行に打診して条件を比較することは必須です。
数字のエビデンスは必ず調べることができる
上記のように、不動産投資において必要となるすべての数字は、比較対象などのエビデンスが必ずあります。それらを確認することは、手間を惜しまなければ誰でもできることなのです。
その上で、相場から見て割高な価格の物件は避け、適正な事業計画を策定し、相場に適した価格で購入することができれば、成功の確率はグッと高くなります。
繰り返しますが、不動産投資は、物件を買った時点で勝敗がほぼ確定します。不適切な物件を買ってしまったら、あとからリカバリーすることはほぼ不可能であり、「キャッシュフローが回らない、売るに売れない」という苦しい不動産投資家に陥ってしまします。
だからこそ、購入前に十分な手間と時間を掛けて調べておくことが大切です。「手間なくラクして儲けたい」と考えて騙されてしまうのか、手間をかけて調査をして成功する不動産投資家になるのか。どちらを目指すべきかはいうまでもないでしょう。
オスカーキャピタル株式会社
代表取締役社長 金田 大介