サラリーマンの副業なのに、10億円超の賃貸物件を保有して多額の利益を得ている成功談を、マスコミやネットでよく見かけます。「ぜひ自分も…」と思う投資初心者は多いのですが、安易に足を踏み入れると、大変なリスクを背負う危険があり、要注意です。不動産会社の経営者として物件の選定・売買に携わる一方、投資家に「よい物件選び」の神髄を惜しみなくレクチャーし続ける、オスカーキャピタル株式会社の金田大介社長が解説します。

「投資総額が大きいほどよい」という、危険な誤解

不動産投資に興味のある方、不動産投資を始めたばかりの方は、ネットでさまざまな情報を見ていると思います。不動産情報専門サイトや、SNS、YouTube等では、会社員の副業にもかかわらず、10棟以上ものアパートを所有して投資総額が10億円を超える投資家、保有室数が500室を超える、さらに大規模な投資家の姿を見ることも少なくありません。

 

そんな先輩投資家の「資産10億円」「家賃収入が毎月数百万円」「会社を辞めてFIRE」といった話に刺激され、「早く物件を買い進めたい!」と気持ちが焦ることがあるかもしれません。

 

しかし、ちょっと冷静に考えてみましょう。

 

「多額の投資をしている」「保有物件数が多い」ことは、必ずしも「手元に残るお金=キャッシュフローが潤沢にある」あるいは「儲かっている」ことを意味するわけではありません。本記事では、あらためて投資規模とキャッシュフローについて確認したいと思います。

 

 

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キャッシュフローが残らない大家が「約半数」

不動産投資によって手元に残るキャッシュは、ざっくりいうと、次のように求められます。

 

「家賃収入」 - 「運営費・修繕費・固定資産税、等」 - 「融資返済額」
= 手残りキャッシュフロー(CF)

 

物件の購入を検討する際、販売業者は、上記の予測数値推移をまとめたシミュレーション表を、必ず提示してくれます。

 

しかし、これはあくまでも販売業者側の都合の良いシミュレーションであり、実際には想定通りのキャッシュフローが残らないケースも珍しくありません。

 

うまくいっている投資家はSNS等に登場し、積極的なPR(それも本当かどうかはわかりませんが…)をするので目立ちますが、うまくいっていない投資家は、当然、そんな事実を発信しないため、存在がほとんど目立ちません。

 

しかし、私たち不動産のプロが投資家から直接相談を受けたり、関係者から見聞きしたりしたところでは、数億円単位の規模で投資をしている人たちのうちおよそ半数は、手元にほとんどキャッシュが残っていないというのが実情なのです。「見せかけの総資産」になってはいけないということですね。

 

 

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恐ろしい…「赤字が膨らんで補填できない」という状況

失敗例としてよくあるのが、スタート時から手残りキャッシュがほぼゼロになる「収支トントン」のケースです。「キャッシュが残らなくても、収支トントンで運営・融資を返済すれば、将来的には無借金で土地と建物が手に入るし、OKでは?」と思うかもしれません。

 

しかし、年月が経てば物件は老朽化して、修繕費等の負担が増えます。また、周辺に競合新築物件ができれば、物件の収益力(集客力や設定賃料)も下がります。もし投資から1~2年の時点で「手残りゼロの収支トントン」状態であれば、数年後にキャッシュフローが赤字になることは、ほぼ間違いないでしょう。

 

実際、キャッシュフローがマイナスになり、融資返済のために本業の給料から毎月10万円、20万円と支出し、赤字を補填し続けている人も少なくありません。また、身の丈以上に買いすぎた複数の物件を手放して身軽になろうにも、そういった物件は物件価値が融資残高よりも低い、いわゆる「高買い」「残債割れ」「債務超過」の状態であることが多く、売るに売れないのです。

 

多くの物件を持っていれば、物件の修繕等が重なることもあるでしょう。そうすれば、キャッシュフローのマイナス幅が一気に拡大する恐れもあります。もし給料で補填しきれないほど赤字が膨らめば、行き着く先は破産しかありません。実際、最近も、大量の物件保有で有名だった不動産投資家の破産が話題になりました。

 

 

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金融機関から「融資が出てしまった」ばかりに…

なぜそのような「綱渡り状態」になってしまうのでしょうか?

 

ひとつ目の理由は、不動産投資の知識や経験が少ないのに購入を焦り、収益性が低い物件を掴んでしまうことです。よくあるのは、不動産業者が示す収益やキャッシュフローのシミュレーションを信じて購入したものの、想定外の空室や修繕が発生してキャッシュフローが悪化する、というケースです。あるいは、相場を知らずに高買いしているという、根本的な問題だったりもします。

 

不動産投資は、「収益性の高い物件」を、それに見合った「適正な価格で購入する」ことが基本中の基本です。それを理解せずに保有物件数を増やしても、リスクが高まるだけなのです。

 

ふたつ目の理由は、そんな物件であるにもかかわらず、物件評価よりも本人の属性に依存して「フルローンの融資が出てしまう」ことです。

 

近年は状況が変わりましたが、数年前のアベノミクス初期の金融緩和時代は、いまよりずっと簡単にフルローン融資が引き出せました。それにより、身の丈以上の借入をした素人の投資家が大量に誕生してしまったのです。

 

いまキャッシュフローが回らなくなり苦しんでいる人は、その当時にフルローン融資で物件を増やし、「大規模大家さん」になった人が多いのです。

 

「融資が出る」=「良い物件」とは限りません。満室運営ができる家賃設定かどうか、修繕予算は適正かどうか、将来の売却価格を想定できているか等をシミュレーションしたうえで購入を判断することが大切です。

 

 

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シミュレーションはあくまで予想…ブレることもある

上述したアベノミクス初期のころは、年収が1,000万円ほど(手取りが800万円ほど)の会社員の方がフルローンで1億円程度のアパートを購入し、1~2年のうちに5棟くらいまで保有物件を増やすといったことも、よく見られたものです。

 

総資産額は5億円ですが、負債が同じく5億円なら、「総資産-負債」で示される純資産額はゼロです。

 

たとえば、家賃収入が月100万円、管理費等の支出が月20万円、ローン返済が60万円で、手残り月20万円という不動産業者のシミュレーションに納得し、「行ける」と判断して踏み出したとしても、シミュレーションはあくまでもシミュレーションに過ぎません。

 

不動産業者は、「不動産投資=安定した家賃収入」というイメージで宣伝をします。しかし、そのシミュレーションの中には、空室率や家賃下落率・修繕費用は組み込まれていないことがほとんどです。購入してからこれらの想定外の支出が発生してしまうと、あっという間に赤字に転落してしまいます。

 

その一方、融資の返済だけは確定額であり、収入が減ろうが費用が増えようが、必ず決まった額を返済しなければなりません。

 

もし、想定より入居率が10%(月10万円)低くなり、予定外の修繕費が月10万円発生したら、手残りキャッシュフローはゼロになってしまいます。この程度の変動幅はよくあることです。このような状態で30年の融資期間に耐えられるのでしょうか。ましてや、5棟も10棟も所有していたら、末恐ろしい結果になるであろうと容易に想像できると思います。

 

このような状況に追い込まれ、不動産投資のキャッシュフローのマイナスを、本業の給料から補填し続ける人が続出…というわけです。

 

 

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焦ることなく「身の丈にあった投資」からスタートを

年収が1,000万円ほどの会社員の方なら、価格5,000万円程度で、せめて10%くらいの利回りを見込めるアパートから投資を始めることをおすすめします。

 

その際、できればフルローンではなく10%程度の自己資金を入れましょう。融資額を減らせば物件価格に対するキャッシュフローが増えるので安全性が高まります。

 

そして、短期間で複数棟を一気に買うのではなく、1棟ごとに6ヵ月は運営してみてシミュレーション通りに収益が上がるのかを確認しながら、次の購入に向けて動くことをおすすめします。

 

2棟目の購入は、それからの検討でも遅くありません。むしろ、経験を通じて物件を見る目も鍛えられ、成功の可能性が高まります。

 

 

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投資の本来の目的を忘れずに

不動産投資の本来の目的は、投資した物件から利益を得て、キャッシュを手元に残すことです。

 

もちろん、投資額を増やして多くの物件を保有すれば、大きなキャッシュを残せる可能性もありますが、その反面、1つ歯車が狂えば大きなマイナスとなり、破綻につき進むリスクもあるのです。少なくとも、初心者が最初に足を踏み入れる道としては不適切でしょう。

 

SNS等で見られる、一見成功していそうな情報にはつい目を引かれ、「早く自分も…」と焦る気持ちになりがちですが、冷静に立ち止まって適切な判断をなさってください。

 

 

オスカーキャピタル株式会社
代表取締役社長 金田大介

 

取材:椎原よしき