修学支援のあり方を検討している文科省の有識者会議。返済義務のない「給付型奨学金」に関して、所得制限緩和の検討を始めました。しかしその報道に対しては疑問の声が……みていきましょう。
年収380万円以上に対象拡大、ただし子は3人以上…「給付型奨学金」所得制限緩和も疑問の声「やっぱり国はケチ」 (※写真はイメージです/PIXTA)

子ども1人も大学に通わせられない、日本のサラリーマン

厚生労働省『2021年 国民生活基礎調査』によると、「児童(18歳未満の未婚の者)がいる世帯」は1,0 73万7,000世帯で、全世帯の20.7%になります。内訳をみていくと、「児童が1人」の世帯は502万6,000世帯で児童のいる世帯の46.8%を占めます。また「児童が2人」の世帯は426万7,000世帯で児童のいる世帯の39.7%、「児童が3人」の世帯は144万4,000世帯で児童のいる世帯の13.5%です。

 

その世帯所得をみていくと、平均813万5,000円。「児童1人世帯」は平均787万1,000円、「児童2人世帯」は平均839万1,000円、「児童3人以上世帯」は平均832万9,000円となっています。

 

子どもの数が増える分、所得も増えれば問題ありませんが、そうはいきません。多子世帯ほど、教育費負担率は大きくなっていくので、確かに多子世帯を優遇する方向は、間違いではないでしょう。ただ「子ども1人を育てるのも経済的に厳しい」というのが日本の実情。所得や子どもの数で線引きするのは無意味かもしれません。

 

現在、第1子が大学入学を迎えるのは、平均40代後半から50代前半あたり。40代後半のサラリーマン(正社員)の平均月収(所定内給与)は39万0,500円。手取りにすると30万円ほどです。さらに推定年収は642万円ほどになります。

 

それに対し、大学にかかる費用はというと、初年度、国立大学の納付金は81万7800円、私立大学は文系で117万2582円、理系で154万9688円。順調に4年で卒業したら、国公立大学で250万円ほど、私立大学文系で400万円、私立大学理系で550万円程度の費用が必要になります(文部科学省『国立大学等の授業料その他の費用に関する省令』、『私立大学等の令和元年度入学者に係る学生納付金等調査』より)。

 

場所によっては自宅外通学となりますから、プラス仕送りが必要となります。日本政策金融公庫の調べでは、仕送りの平均は年102.3万円、1ヵ月で8万5,000円ほど。自宅外の場合、国公立でも4年で800万円程度の支出は覚悟しなければならないわけです。

 

手取り30万円ほどのサラリーマンにとって、子どもを1人大学に通わせるのは、自力では少々難しいと言わざるをえません。多くが家庭で奨学金を利用するのも納得でしょう。しかし返済義務のある奨学金では、大学卒業後の本人負担が大きすぎるため、返済義務のない「給付型奨学金」はとてもありがたい存在です。そのように考えると、親の収入や子の数で線引きする「給付型奨学金制度」に疑問を感じるでしょう。

 

今回報道された、修学支援制度の対象拡大。意味ある未来の投資になるよう、検討を重ねていただきたいものです。