青沼爽壱氏の著書『世界の現状と互立主義―貧困と戦禍のない社会』より一部を抜粋・再編集し、「世界経済にとって最大脅威としての所得格差」について見ていきます。
「世界の富豪ランキング」からわかる「拡大していく所得格差」の実態 (※写真はイメージです/PIXTA)

「投機」が所得格差をますます拡大

世界は富の偏倚により困窮する人々が多くなってきただけでなく、資本主義の国はもちろんであるが、最近は共産主義の国までが投機・金融商品などで一層経済格差を広げ(注2)、一般国民や人民を貧困におとしいれているのである。

 

このことについて、井上喜代子著『世界金融危機の構図』勁草書房、2010には「投機は何の価値を生み出すことがない(中略)これ等の結果、産業空洞化は深化して経済停滞、失業、賃金抑制を促す」と記されている。

 

投機や金融商品等によって得られる富は食糧や生活用品等を生産することで得られるような実質的な富と異なっており、実質的な富を交換するために使われるようになった(実質的富を裏打ちするにすぎなかった)金で金を得るもので、働かずに得るという完全に虚の富なのである。

 

しかも、この虚の富は実際に本人が体を動かして得る実質的富よりも収益率が非常に高いと同時に損失率も高いという、まさに博打的経済行為によって得られるものである。

 

そして、利潤の獲得を第一としている市場経済制度の金融関連会社では、投機の収益率の高いことをうたい、損失率も高いことには気がつかないようにしている。

 

そのため、虚の富をつくる投機など(博打)に関心を持つ者が増えており、しかも社会はそれを良しとしているから現在の世界は所得格差がますます拡大するようになったのであろう。

 

2010年9月の国際決済銀行の報告書には、「日々の世界の為替相場(出来高)は4兆ドルを超える(中略)世界の金融資産の推計は2007年で194兆ドル」と記されているが、2019年末に米国で発表された報道資料によれば世界の家計金融資産は約226兆ドルとなっている。

 

それに対して、2019年の名目世界総生産(GDP)は約87兆ドルと推計されているから、<実質的な富>よりも約2.5倍の金融資産が出回っていることになる。

 

人体にきれいな血液が循環していたからこそ健康であったように、世界経済も<実質的な富>だけが流通していたころは社会も健全であった。そこに、膨大な<虚の富>が混入してきたから、2019年には36億人以上もの貧困者がいるようになったのである。

 

さらに、投機のプロたちは価格の変動に乗じて儲けようとし、資金もあるからバブルさえも自分たちでつくっては利益を得たりしている。バブルが崩壊してもプロのギャンブラーや富裕層への影響はないけれど、その度に市場は混乱し、一般社会人の生活は一段と悪化してしまう。

 

また、「投機の資金は借り入れに依存する傾向」が強いので、投機の失敗は資金の借入先に損失を与え金融市場に混乱をもたらすといわれている。

 

借り入れのできる少数の富裕層や銀行などは、損をしても何度でも投機(博打)をし、失敗も取り戻す機会を持つことが出来るのである。それに比べて簡単に借り入れの出来ない一般市民の多くは、失敗すると再び博打につぎ込めるだけの余裕がないので常に損失をかぶっているばかりなのである。

 

 

(注1)2010年に世界富豪388人の資産が、所得下層者約36億人の総資産額に匹敵するとされていた。同様な比率で2015年には、85人の資産が匹敵し、2019年には26人で匹敵していたけれど、2020年は8人で匹敵するというように富の偏倚が年々激しくなっている。

 

(注2)浜矩子著『死に至る地球経済』岩波ブックレット、2019 参照

 

 

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青沼 爽壱

日本大学法学部勤務