青沼爽壱氏の著書『世界の現状と互立主義―貧困と戦禍のない社会』より一部を抜粋・再編集し、「世界の貧困と絶望感」の現実を見ていきます。
「いくら働いても生活が苦しく…」資本主義が生んだ貧困とテロリズム (※写真はイメージです/PIXTA)

努力次第、自己責任で「富が得られる」と見せかけて…

現在の世界は市場経済が主流であり、これは常に個人の利益を優先させる資本主義の経済制度である。

 

だからこそ、各人の所得格差は拡大する一方で、貧困者が多くなり金がないため「生きていく自由」を失う者も少なくはないと考えられる。

 

そして、一般に努力すれば富が得られる(自己責任である)といわれているが、現実には努力すれば必ず富が得られるものではないのである。運が良くて贅沢に暮らせる者や、運があって普通に暮らしている者もいるけれど、運のない者はいくら働いても生活が苦しいし、運が悪くて生きていけない者もいる。

 

世界には最近約40億人以上(注1)の者が貧困に苦しんでおり、その中の約8億人が1日200円以下で暮らさざるを得ない超貧困者という現状である。もはや基本的人権は「絵に画いた餅」となりつつある。

 

日本では沖縄や四国・九州の一部に貧困率の高い県もあるが、先進国として豊かな時代もあったから、飢餓の恐ろしさに実感の湧かない人も多いようである。けれど、「世界の貧困」はコロナ不況も重なって今後一層厳しくなる(注2)と思われる。

激動する世界

2015年1月、パリ市内の週刊誌編集会議を狙った、テロによる銃撃戦や立て籠もり事件があり、多数の市民が殺りくされた。

 

ある学者は、若者が生きづらい社会そのものに「テロリズムのつけ入る余地があり」、彼らは扇動されるまま実行に及んでしまったのであろうと指摘する。この指摘が正しければ、事件は「生きていく自由」を失うことに反抗していた若者が、皮肉なことに「言論の自由」を失わせようとするテロリストの手先に使われたことになる。

 

実は、長引く中東での戦場で、多数の戦闘員が死傷してもイスラム国の戦力がなかなか衰えないのは、欧米の若者たちの一部がテロ組織の国へ流入しているからだという意見もあるとみられている。

 

極端な見方かもしれないが、「資本主義の社会では生きていけない」という絶望感(注3)が、この若者たちを過激派組織に扇動した事実も否定できないであろう。