一見問題なさそうな「同意や賞賛」も、実は…。「パワハラになるコミュニケーション」の例【メンタル産業医が解説】

3Gシリーズ、その3-3:パワハラを防ぐ「管理力強化(Guard)」

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一見問題なさそうな「同意や賞賛」も、実は…。「パワハラになるコミュニケーション」の例【メンタル産業医が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

以前の記事では、メンタル不調対策として、メンタル不調者に現れる「黄色信号」を解説しました。ただし、メンタル不調は陥らせないことが何よりも重要です。3Gシリーズ第3弾となる本稿では、部下に危険信号が現れないようにするための「管理力強化(Guard)」として、パワハラの防止について見ていきましょう。“メンタル産業医学”の命名者・櫻澤博文医師(合同会社パラゴン代表社員)が解説します。

今、パワハラ対策は喫緊の課題

大企業には2020年から、中小企業にも2022年から「労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)」が課せられています。そんな中、喫緊の課題となっているのが「上司によるパワハラへの対策」です。厚生労働省が「労働者の心の健康の保持増進のための指針」で示したケア方法の一つ、「管理職による支援(ラインによるケア)」の実行力を各段に向上させるには、どうすればよいのでしょうか? 積極的傾聴の提唱者トーマス・ゴードンが区分した「12の悪いコミュニケーション」を基に解説します。

 

今回は「6 反対、批評、批判、非難」、「7 同意、承認、賞賛」、「8 侮辱、愚弄、レッテル貼り」、「9 解釈、分析」を紹介します。6と8はわかりますが、7や9はどうしてなのでしょうか? 本稿にて、事例に即して理解しえる内容にしました。

6 反対、批評、批判、非難(Disagreeing, judging, criticizing, or blaming)

〈事例〉~電話帳を片手に、1ページから順番に電話をかけては自社サービス『豊健康経営V2.0』(=産業医の代わりに保健師に産業医の業務をさせるスタイル)への乗り換えを提案する…。そんな昭和時代の営業を強いられていた駆け出し営業職・山田君。

 

ロクに休憩を取ることもできず、不本意ながら残業をして挽回を狙いました。ところがそれさえ上司・荒居からお咎めを受けてしまい、へこみようがないくらいへこんでいます。

 

部下・山田:「荒居先輩! 報連相が大切なことくらいはわかっています。でも先輩が私に命じていたのですよ。午前に残業しなさいと!(おっと、ちゃんと反論できた!)

 

上司・荒居:「ヤーマダー! お前はいつから管理職になったのだ。人件費は今月の予算額が決められているのに、困るじゃないか。管理するのは俺なんだよ。大川社長から叱られるのは俺なのだ。オオコワ…

 

(ふと、思いついたように)お前に俺は残業を命じてはいないし、お前から会社に、残業するという明示もない中だよな。お前が勝手に残業してもらっても困るのだよ。お前もわかるように、この会社は契約先にホワイトニングを持ちかける、ホワイトな会社なのだからさ。いいかい! 今回はお前が会社にいただけにしておく。いいな!」

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【解説:なぜ悪いのか?】

このように、悪いのは相手と決めつけて、ひたすら反対するためだけの反論を述べるばかりでは、指摘されたほうは心を閉ざすほかありません。

7 同意、承認、賞賛(Agreeing, approving, or praising)

驚くべきことに、トーマス・ゴードンは、相手に同意したり、認めたり、褒めたりすることを「コミュニケーションを妨害する12類型」の1つに位置付けています。

 

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〈事例〉~先ほどの続き。山田君が残業を命じたのは先輩であると反論したら、「残業は山田の独断だ。当社は、契約先にホワイトニングを持ちかけるホワイトな会社だ!」と反論されてしまい…。

 

部下・山田:「先輩。確かに弊社の大川社長が、どこかの社長が書いた本をもとに『社員の心を折らせない5ステップ』を日ごろから述べているので、知っていますよ。でも集まってくる医師は高齢者だし、保健師も未経験者ばかりだから、乗り換えるほうの会社も“安かろう、悪かろう”で致し方ないと割り切っているのではないでしょうか?」

 

上司・荒居:「そうだよ」

 

部下・山田:「ですよね。当社の『豊健康経営V2.0』は、産業保健や労働衛生への支出を削減したいという、もとからブラックな会社向けのサービスであって、そういった悪徳企業しか当社の商材は使わないのではないですかね?」

 

上司・荒居:「ヤーマダ! お前はよくわかったな。そうなのだよ。『名ばかり』とか『名義貸し』の産業医でよしとしていたことからも、顧客候補はもとからブラックな会社だ。法律のことなんて、まるでわかっていない。もとから何もしていない産業医と契約していることが法律違反なのは知っている。でも、保健師に代わりを担ってもらえることが法律違反なことまではわかっていない。それでもコンプライアンスが向上するということを、まったく疑っていない…。こんな簡単なまやかしすらもわからない連中なのさ。まさか電話するときに、“おたくはブラックですか?”と確認するわけにもいかないだろう」

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【解説:なぜ悪いのか?】

同意・承認・賞賛と内容が良い概念であっても、「6 反対、批評、批判、非難」と同じく悪いか良いかの違いでしかなく、評価を与えられたことに違いはありません。6と同じように、コミュニケーションはこの段階で止まってしまいます。また、いわゆる「上から目線」を感じさせてしまっては、対等なコミュニケーションにならなくなってしまいます。

8.侮辱、愚弄、レッテル貼り(Shaming, ridiculing, or labeling)

〈事例〉~残業しなくていいと理解した山田君。時刻はもう19時30分を回ろうとしているので、帰り支度していたところ…。

 

上司・荒居:(不平そうに)ヤーマダ! お前、誰が帰っていいといった。“ここに存在していたい”と態度で示していたのはお前だろうが。俺も考えたよ。何しろ定時の18時以降も成約はゼロだろう。このままでは『永遠にゼロ』だぞ。お前、明訓の山田君やヤクルトの山田哲人と同じ姓で恥ずかしくないのか。俺だったら、恥ずかしいから名前を換えるゾ! 『だめだ』と呼んでくださいって。明日から『だめだ』と名乗ったらどうだ!!」

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【解説:なぜ悪いのか?】

説明するまでもありませんね。

9.解釈、分析(Interpreting or analyzing)

〈事例〉~先ほどの続き。

 

上司・荒居の心の声:“なぜ山田は帰らないのだろうか!?(はたと机を打ちつけ、山田君ビックリ)

 

――わかったよ。この時間、まだまだ暑い。自宅もそうだろう。自宅ならクーラーの電気代を支払わないといけないが、ここだったら支払わなくて涼めるからだろうな。なんてケチな奴だ!”

 

部下・山田:「…」(←先ほど荒居が机をゲンコで殴った後、ビクビクしているところ)

 

上司・荒居:「ヤーマダ!! (水島新司による漫画『ドカベン』で出てくる明訓高校野球部1番打者岩鬼正美ばりに)お前、何 電気代 ケチってんだ!

 

部下・山田:「え、そんなことないですよ(この人突然キレる! しかも意味わからないこと述べている…頭がおかしい!!!!)」

 

上司・荒居:「お前、俺が帰れといったのに帰らないのは、クーラー代をケチっているからだろうが!」

 

部下・山田:「(この人、まるでわかっていない。これでは心が折れる…思いっきりブラックだ…)」

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【解説:なぜ悪いのか?】

確かに、積極的傾聴法では「聞き返し」や「オウム返し」、そして「是認」をすることは文字通り是認されています。しかしながら、このように解釈を間違った上で、そうだと決めつけては、相手の心をかえって閉じさせるだけではなく、相手に間違った解釈さえも与えてしまいかねません。

 

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さあて、ここまで侮辱を受けた山田君。この後どうする!? 次回は、トーマス・ゴードンによる「悪いコミュニケーション」の12区分のうち、「10 安心させる、同情、慰め」、「11 質問、探り、尋問」、「12 話題変更、話題反らし、ご機嫌取り」を紹介します。11と12はわかりますが、10はどうしてなのでしょうか? 次回記事をお楽しみに。

 

※参考文献:トーマス・ゴードン著、近藤千恵訳『ゴードン博士の人間関係をよくする本 自分を活かす 相手を活かす』(大和書房、2002年)

 

※注:事例はフィクションであり、実在する組織や団体、商品内容、人物とは似ているものがあったとしても非なるものです。

 

 

櫻澤 博文

医師

労働衛生コンサルタント

日本産業衛生学会指導医

合同会社パラゴン 代表社員

 

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※本記事は、オンライン診療対応クリニック/病院の検索サイト『イシャチョク』掲載の記事を転載したものです。