自死者は「新型コロナウイルスで亡くなる人」より多い
コロナ禍下でも新型コロナウイルスによる感染死より多く発生していたのが自死(著者は自殺のことを自死と表現しています)でした。厚生労働省の『令和2年(2020)人口動態統計(確定数)』によると、2020年度中の日本での自死者数は2万243人(①)でした。
対して、NHKがまとめた2020年12月31日までの新型コロナウイルス感染に伴う死亡者数の累計は3,492人(②)です。
①と②の比より、日本の2020年時点における自死の危険度は5.8倍と、新型コロナウイルス感染よりも高い結果になりました。
コロナ禍、調子が悪いのに無理をしていませんか?
自死の原因となるのがメンタル不調。そのメンタル不調の症状は、実のところ、以前のインフルエンザや最近の新型コロナウイルスに罹って体調を崩した方の特徴と似ている部分があるのです。
あなたの身近に、実際に罹って体調を崩した人はいませんでしょうか。もちろんご自身の過去を振り返ってもらっても構いません。以下の症状がなかったか、確認してみてください。
●いつもとは違う体の痛み(肩こり、頭痛、生理痛、腹痛、腰痛等々)
●体の重さ
●動きの鈍さやぎこちなさ
●疲れ・疲労感
●倦怠感(体が思い通りにいかないやるせなさ)
●意欲ゼロ感
●辛さ
●寝込んでいたい・突っ伏していたい感 etc.
上記のような調子の悪さを感じていたかと思います。むろんそれらには、インフルエンザウイルスだったり、新型コロナウイルスだったりという、悪さをしでかした原因があるわけです。その証拠に鼻づまり、くしゃみ、ノドの痛み、咳、息苦しさといった、「気道」という空気の通り道がウイルスに攻撃・破壊された結果起こる、各種症状も出現します。
それらの症状がどうして発生するのかというと、まず、ウイルスが体内に存在していると、体内では「抗体」という迎撃ミサイルが打ち上がります。そのミサイルが撃ち込まれた先には敵が存在しています。その抗体の存在を目印に、「リンパ球」といった白血球の仲間が、あたかも侵攻する戦車のように押し寄せます。
敵の存在場所には連日連夜、「リンパ球」といった戦車部隊が押し寄せ、ウイルスが侵略した陣地を奪還しようと攻撃を繰り広げているようなもの。なので腫れますし痛みます(「抗体」という迎撃ミサイルを素早く打ち上げさせる手段は何だと思いますか? それがワクチンです。ワクチン接種によって事前にウイルスの特徴がわかっていたら、識別が素早くなるわけです)。
なんだか調子が悪い…は心身からの「危険信号」
むろん、以上はウイルスに基づく感染症。「抗体」や「リンパ球」という免疫細胞がキチンと働くための特別な状態です。そう、生命を維持するための特別な状態なのです。
この特別な状態は、いつもの状態とは違います。もう一度、先ほどの症状を確認してみましょう。
◎いつもとは違うからだの痛み(肩こり、頭痛、生理痛、腹痛、腰痛等々)
◎体の重さ
◎動きの鈍さやぎこちなさ
◎疲れ・疲労感
◎倦怠感(体が思い通りにいかないやるせなさ)
●意欲ゼロ感
●辛さ
●寝込んでいたい・突っ伏していたい感 etc.
◎をつけた内容は、生命を維持するために起こる特別な状態ですが、いかがでしょうか。本来は特別な症状なのに、改めて思い返すと継続していなかったでしょうか? 多くの方が思い当たるでしょう。「自分はコロナに感染しているのではないか!?」「他人にうつしてしまったらどうしよう!?」と不安を抱いた経験がある、と。
これらの症状は本当は特別なもので、心身からの警鐘、魂や本能からの叫びといっても過言ではないのに、無理を圧(お)す方が多くいらっしゃいます。
読者の皆様におかれましても、日ごろから無理を圧しがちな性質を持ち、真面目で誠実な方が多いのでしょう。国は、2014年6月に労働安全衛生法を改正し、2015年12月から、一人でも労働者を雇用している事業者に「ストレスチェック」(正式名称は「心理的な負担の程度を把握するための検査」)を義務付けました。それは、ストレスを受けているのに無理していないかどうかを自覚してもらうために、です(この「ストレスチェック」については次回にも解説を加えます)。
自死の原因となる「うつ病」を見逃さないために…
前述の身体不調をきたす背景にあるメンタル不調の代表が、一般に“うつ病”と呼ばれる「抑うつ性障がい」です。ストレスの多い現代社会では、誰もがかかりうる病気です。
ストレスによる脳の疲れが、土日祝日のような休日を経ても回復することがなく、月曜以降、疲れが溜まった脳に対して新たなストレスが降りかかる状況を想像してください。これらが続くと、こなすべき仕事・家事・勉強の量に対して、処理量が追い付かず、ますますストレスが加わり、いよいよいつかは破たんしかねないということはご理解できるでしょう。
以下に、メンタル不調の代表である「抑うつ性障がい」を例に、どのような症状が出るのかを記載します。
<抑うつ気分>
●気分が落ち込む
★毎日のように、ほとんど一日中憂うつな気分が続いている(最低2週間以上)
●悲しい気持ちになる
●自分に希望が持てなくなり、いなくなってしまいたいと感じる
●自分は価値がない人間だと思う、自分が悪い・自分の責任だと罪の意識を感じる
●仕事・家事・勉強などに集中できない、あるいは決断や判断が難しいと感じる
●この世から消えてしまいたい…死ねばよかったと考えてしまう
<不安・焦燥感>
●いつもなんとなく不安(理由のない不安感が持ち上がる)
●いてもたってもいられない(理由なく焦りの気持ちが湧きあがる)
<意欲の低下>
★これまでは楽しかったことが楽しめなくなり、興味が持てない(最低2週間以上)
●友人や家族と話すのも面倒で、話していてもつまらない
●洗顔や着替え、食事といった基本的なこともするのがおっくう
●新聞・雑誌を読む気がしない、テレビを観る気がしない
<睡眠の乱れ>
●夜:寝付けない、夜中に目が覚めてしまう
●朝:目覚ましよりも早く目が覚める
●寝た気がしない、あるいは寝すぎる
<食欲の低下または増加>
●食欲がない
●何を食べてもおいしくない(味わえなくなった。砂を噛むようだと感じる)
●ダイエットをしているわけでもないのに、体重が1ヵ月で数キロも減った、または逆に食欲が増して体重が増えた
<疲労・倦怠感>
●体がだるい
●ひどく疲れる、疲れやすい
●体が重い
●体がいうことをきかない
<ホルモン系の異常>
●月経不順
●性欲低下
●勃起障がい
<体の症状>
●頭痛、肩こり、腰痛、背中の痛みなど、さまざまな部位が痛む
●便秘または下痢しがち
●心臓がドキドキしたり、息苦しくなったり、のどが渇く
いかがでしょうか。アレもコレもあてはまると心配になった方もいらっしゃることでしょう。
本当に、“うつ病”の可能性があるのかどうかは、★をつけた部分にご着目ください。
抜粋すると、
★毎日のように、ほとんど一日中憂うつな気分が続いている(最低2週間以上)
★これまではたのしかったことが楽しめなくなり、興味が持てない(最低2週間以上)
です。
これらには “最低2週間以上”という記載をつけました。これは米国精神学会による“うつ病”だと診断をつけても問題ないとする基準で、上記2項目が1ヵ月以上続く場合に、専門医が他の診察所見等と勘案の上、いよいよ「抑うつ性障がい」、つまりはうつ病だと確定診断を下しても構わないとする基準です。
症状がそれほど長引いていなくても心配だという方は、かかりつけ医に相談ください。
そこまでひどくないという方は、次回記事で解説する対処法をご覧ください。
次回まで待てないという方は、8月5日発売の書籍『5人の名医が脳神経を徹底的に研究してわかった 究極の疲れない脳』(2022年8月5日刊行、アチーブメント出版)をおすすめします。
櫻澤 博文
医師
労働衛生コンサルタント
日本産業衛生学会指導医
合同会社パラゴン 代表社員
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