部下のメンタル不調を防ぐには?「パワハラになるコミュニケーション」の例【メンタル産業医が解説】

3Gシリーズ、その3-1:パワハラを防ぐ「管理力強化(Guard)」

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部下のメンタル不調を防ぐには?「パワハラになるコミュニケーション」の例【メンタル産業医が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

以前の記事では、メンタル不調対策として、メンタル不調者に現れる「黄色信号」を解説しました。ただし、メンタル不調は陥らせないことが何よりも重要です。3Gシリーズ第3弾となる本稿では、部下に危険信号が現れないようにするための「管理力強化(Guard)」として、パワハラの防止について見ていきましょう。“メンタル産業医学”の創設者として知られる櫻澤博文医師(合同会社パラゴン代表社員)が解説します。

部下が安心して仕事に邁進するためには?

「フロー」という専門用語がありますが、部下の一人ひとりが時間の過ぎるのも気が付かないくらいに集中して、仕事に取り組み結果を出してもらうことが、管理職が目指す“生産性の高い状態”でしょう。

 

そのためには、その部下が自分らしくあるがまま(映画「アナと雪の女王」を思い出してください)で、強みを生かす(例:唄「世界に一つだけの花」)環境を、上司が用意する必要があります。

 

それとともに、一人ひとりがそれぞれ有機的につながり、相乗効果(シナジー)を発揮できるような仕事の振り方をすることも大切になってきます。

 

厚生労働省が、いわゆる「メンタルヘルス指針」という「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を制定したのは今から20年も前、2000年8月のことでした。そこでは4つのケアが提唱されており、記憶にある方もおいででしょう。

 

4つのケアを車の駆動方式に例えながら見ていくと、後輪駆動である「①事業場外資源によるケア」(解説:病院やクリニックでの専門的治療)、「②事業場内産業保健スタッフによるケア」(解説:衛生管理者や産業医という社内専門職)に加え、前輪駆動である「③労働者自身のケア(セルフケア)」、そして④「管理職による支援(ラインによるケア)」が示されています。

 

二輪駆動車より四輪駆動車のほうが走行は安定し、困難な坂への登坂力が優れているように、後輪駆動だけでは車はお尻を振り振り、すべすべ(お肌ではなく)前に進みません。

 

「労働施策総合推進法」(通称:「パワハラ防止法」)により、2022年4月から中小企業でもパワハラ対策が課せられて半年。パワハラ対策がいよいよ喫緊の課題となっている中、「管理職による支援」として、管理職は具体的にどのようにして部下を管理すればよいのか、前述の「メンタルヘルス指針」に記載はありません。20年前に示された指針なので仕方のない面もありますが、やはりそれでは困ります。

 

そこでメンタル産業医の命名者として、道路にあるガードレールのように、社員が安心して仕事に邁進できるよう「対応力の強固方法(guard:ガード力向上)」を解説したいと思います。残念な管理職がしがちな「悪いコミュニケーション」を12項目に区分し、それぞれの事例を踏まえつつ、なぜ悪いのか?を見ていきましょう。

残念な管理職がしがちな「悪いコミュニケーション」

12というと、薬師如来をガードする十二神将が有名です。薬師如来は健康や長寿を叶えてくれる仏様として古来より信仰を集めてきました。職場で労働者を怪我させることなく、出社したときより「今日は成長した」「たくさん達成した」と、達成感を味わってもらいながら健康と長寿を具現化するのは、職場の上司です。

 

本稿から数回にわたって、管理職である上司がやりがちな「悪いコミュニケーション」の12パターンを紹介します。それら落とし穴(ピットフォール)を先に意識することで、ピンチはチャンス、危機の“機”は機会の“機”よろしく、よいコミュニケーションをとる気づきを与えられたらと考えます。

 

■積極的傾聴の提唱者:トーマス・ゴードン

機関車トーマスの第1話「トーマスとゴードン」ではありません。今日の「産業カウンセラー」にとって始祖中の始祖、いわば師匠中の師匠はカール・ロジャースです。その一番弟子がトーマス・ゴードンであり、「積極的傾聴(アクティブ・リスニング)」の提唱者です。積極的傾聴というと、「ああ、あれか」と思い至る方が多いでしょう。

 

トーマス・ゴードンは、我々が会話する際に相手の話をきちんと捉えることを邪魔し、そして相手からの会話に対して好ましくない対話をとってしまう内容を、12類型に区分しました。

 

<悪いコミュニケーションの12区分>

1 命令や指示、指図

2 警告、注意、脅迫

3 助言、提案、解決策の呈示

4 論理的に説得、解説のうえ同意を得る

5 説教

6 反対、批評、批判、非難

7 同意、承認、賞賛

8 侮辱、愚弄、レッテル貼り

9 解釈、分析

10 安心させる、同情、慰め

11 質問、探り、尋問

12 話題変更、話題反らし、ご機嫌取り

 

本稿では「1 命令や指示、指図」「2 警告、注意、脅迫」について事例とともに解説します。

1 命令や指示、指図(Ordering, directing, or commanding)

自身の持つ権威性(上司、職位)で指示するだけ。

 

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〈事例〉~DXテクノロジー時代なのに、電話帳を片手にかたっぱしから電話営業をかけるような昭和時代の会社にて

 

部下・山田:「先輩! 電話してもガチャ切りされるだけですよ。うちの会社、『フィンテック時代だ! エドテックへの進出だ! ヘルステックの最先端企業だ!』といっているわりには、貧テック、江戸時代テック、メンタルに来る暗ヘルスな、5G社会とは『名ばかり』の、ご苦労さんご容赦ください、ご免ください、ご愁傷さまでした、ご破算願いましては…の5Gテクノロジーズばかりですね。こんな効率悪い営業スタイル、どうにかなりませんか?」

 

上司・荒居:「ヤーマダ! (水島新司による漫画『ドカベン』で出てくる明訓高校野球部1番打者岩鬼正美ばりに)誰が文句を言えと言った! 電話をかけろと言ったら、電話をかけろ!」

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【解説:なぜ悪いのか?】

本人の主体性を奪うのみならず、自分で考えることがなくなってしまいます。多様性ある社会に対応するには、その組織も様々な立場、意見、考え、思考、志向、そして試行がないと成長が損なわれます。

2 警告、注意、脅迫(Warning, cautioning, or threatening)

〈事例〉~上記の続き。電話営業で『豊健康経営V2.0』という新サービスへの乗り換えを促す、駆け出し営業職・山田君。電話をかけ続け、午前が終わる頃…

 

部下・山田:「荒居先輩! 『豊健康経営2.0』の説明を聴いてみたいという見込み客は2件とれました」

 

上司・荒居:「たったそれだけか! そのペースでは午後もヒットは2件だな! 夢には日付がないと、夜にみる夢と変わらない。目標10件は『10件とるという“夢”』ではない。“達成目標”だ。10件ヒットとれるまで残業してでも達成しろ!

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【解説:なぜ悪いのか?】

記載するまでもありませんね。

 

次回は「3 助言、提案、解決策の呈示」「4 論理的に説得、解説のうえ同意を得る」そして「5 説教」について見ていきます。一見するとよい対応に思えますし、何より、誰でも実施していることです。なぜこれらが「悪いコミュニケーション」に該当するのでしょうか? 引き続き、部下・山田と上司・荒居の事例を通して解説します。

 

※参考文献:トーマス・ゴードン著、近藤千恵訳『ゴードン博士の人間関係をよくする本 自分を活かす 相手を活かす』(大和書房、2002年)

 

※注:事例はフィクションであり、実在する組織や団体、商品内容、人物とは似ているものがあったとしても非なるものです。

 

 

櫻澤 博文

医師

労働衛生コンサルタント

日本産業衛生学会指導医

合同会社パラゴン 代表社員

 

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※本記事は、オンライン診療対応クリニック/病院の検索サイト『イシャチョク』掲載の記事を転載したものです。