70代「お金のために働いています」が3割
——配達です。
そうチャイムが鳴り、玄関の扉を開けると、高齢の配達員が……そんな経験をしたことがある人は珍しくないのではないでしょうか。そして多くが「なぜ、こんなに高齢なのに働いているんだろう……」と疑問に思ったはずです。
そもそも、なぜ人は働くのか。内閣府『令和3年度国民生活に関する世論調査』で「働く目的」を聞いたところ、「お金を得るために働く」が最も多く、61.1%。前回2019年調査56.4%から5ポイントほど上昇。過去20年を振り返ってみても、とりわけ高い値でした(図表1)。
年齢別にみていくと、50代までは「お金」を理由に働く人が7割。それが60代になると6割、70代以上で3割強まで下落。その分、「生きがい」や「社会参加」を理由にする人が増えます。これは定年あたりで教育費や住宅ローンなどの目途がつく一方で、年金受給が始まり、「お金」以外の理由で働く人が増えるからでしょう。
【年齢別「働く理由」】
18~29歳:75.4%/4.9%/7.9%/9.4%
30~39歳:73.7%/11.5%/7.7%/3.8%
40~49歳:75.8%/10.5%/7.2%/5.9%
50~59歳:73.9%/12.6%/3.9%/7.8%
60~69歳:59.3%/10.9%/9.9%/15.4%
70歳以上:35.2%/16.4%/7.1%/27.1%
出所:内閣府『令和3年度国民生活に関する世論調査』より抜粋
※数値左より、「お金を得るために働く」「社会の一員として、務めを果たすために働く」「自分の才能や能力を発揮するために働く」「生きがいをみつけるために働く」
しかし70代にして「お金」を理由に働く人が3割強。そこにはリタイアして悠々自適に暮らす高齢者の姿はありません。
厚生労働省『令和2年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、国民年金受給者の平均受取額は月額5万6,358円、厚生年金受給者の平均受取額月額14万6,145円。しかしこれはあくまでも平均値。厚生年金を受け取っている人の中でも、年金受給額(国民年金+厚生年金)が5万円に満たないのが2.5%ほど、10万円に満たないのが23%ほどもいます。
さらに厚生労働省『令和3年度 後期高齢者医療制度被保険者実態調査』によると、「年金収入なし」、つまり無年金の人は全国に52万1,803人(関連記事:『年金月平均14万円だが…「もう、生きていけない」日本の高齢者が手を染める、最悪の結末』。
もちろん「年金が少ない」「年金がない」といっても、ほかに十分な収入があり、十分に暮らしていける人もいるでしょう。ただ多くが「老後生活の主な資金源は公的年金」という事実を鑑みると、「年金だけでは生活できず働かざるを得ない高齢者」が、この日本には多くいることが想像できます。