「家族信託」(民事信託)とは、自分が将来病気や要介護になる可能性を考慮し、保有する不動産や預貯金などの管理・処分を信頼のおける家族に任せるという、財産管理の方法です。遺言書以上に多様な承継の仕方が定められるなど、相続における多様なニーズの受け皿としての側面もあり、今後ますます需要を高めていくことが予想されます。近い将来、誰しもが身近になるかもしれない「家族信託」を、民事信託に特化した法律事務所の所長である金森健一弁護士が、具体的な事例をもとに解説します。
【ポイント】法律とは異なる特約を結ぶ「別段の定め」
受託者が債務を負ったまま亡くなると、受託者の相続人がその債務を返済する責任を負うことになります。しかも、その相続人が「信託財産」を売却するなどして借金を返済することはできません。
受託者は、受益者のために財産管理を行うべき立場にありますが、自分の相続人にも影響を与えます。とくに、借入等により債務を負うときは、受託者は自分の相続人となる人にもそのことを話しておきましょう。
イタ子さんのケースは、信託契約書に特約が無かったものと仮定し、信託法という法律の定めに従った場合の説明をしました。
しかし、信託法は、「別段の定め」といって、法律とは異なる内容の特約をすることを認めています。特に、金融機関から融資を受けることを前提とする信託契約は、そのような特約がなされるのが普通です。
そして、その特約は、信託契約書に書かれています。何か起きたときは、まず信託契約書を確認するようにしましょう。
もっとも、信託契約書の内容を理解するのは、なかなか難しいこともあります。読み違えて、後からトラブルになるおそれもあります。迷ったときは、信託について詳しい弁護士のアドバイスを受けるようにするのがよいでしょう。
金森健一
弁護士
金森民事信託法律事務所所長
駿河台大学法学部特任准教授
弁護士
金森民事信託法律事務所所長
駿河台大学法学部特任准教授
高齢者向け管理型信託会社にて、信託会社設立業務専従者、法務コンプライアンス部長、副社長執行役員を歴任。2021年4月より民事信託に特化した法律事務所「金森民事信託法律事務所」を開設。主な取扱分野は、民事信託及び商事信託に関する、信託設定・運営支援、ストラクチャー構築、当局対応や金融機関へのアドバイス、信託会社設立支援、訴訟対応等。著書等に、「民事信託の別段の定め 実務の理論と条項例」(日本加除出版)、「(連載)ここからはじめる!民事信託実務入門」(信託フォーラム16号〜)等がある。
金森民事信託法律事務所
https://krlo.jp/
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載誰しもが身近になり得る「家族信託」を分かりやすい事例で解説