【解説】急逝した受託者による借入の返済責任は誰に?
ジュタロウさんは信託の受託者としてM銀行から融資を受けていました。
そのような債務を負ったまま受託者が死亡した場合に、信託とその関係者にどのような影響が及ぶのかを確認します。
主に次の3点が挙げられます。
※受託者が死亡した場合に、一般的に問題になることについては、連載第1回をお読みください。
①受託者の相続人は返済する責任を負う
②受託者の相続人は信託財産を当てにすることはできない
③新しい受託者は債務を引き継ぐが、法律上は信託財産の範囲でのみ責任を負う
①受託者の相続人は返済する責任を負う
信託の受託者が負った債務は、原則、信託財産だけでなく固有財産(受託者の個人財産)でも返済する責任があります。そのような債務を信託財産責任負担債務(信託法21条1項)と呼びます。
たとえば、受託者が毎月の返済を滞り、信託財産を売却するなどしても、まだ返しきれない場合(オーバーローンの場合)、受託者が自宅や預金を持っていれば、それらをもって返済しなければならないのです。
信託法上は、信託財産のみを引き当てにする「信託財産限定責任負担債務」(21条2項)というものもありますが、「家族信託」では、現状、利用されることはほとんどありません。
信託財産責任負担債務は、受託者の個人財産でも返さなければならない債務であるため、受託者が死亡したら、その個人財産を相続する相続人が、その債務を返済する責任を負うのです。返済から免れるには、相続放棄をするしかありません。
②受託者の相続人は信託財産を当てにすることはできない
もし、自分が受託者の相続人だとしたら納得できない人が多いと思います。「それなら、信託財産から返済されるべきであり、受託者の相続人が返済しなければならないのはおかしい」と思うでしょう。
しかし、信託法はこのような場面において、受託者の相続人が返済した場合には、新受託者から償還を受けることができるとしているにとどまります(75条6項参照)。
つまり、受託者の相続人は金融機関に対し立替払いをして、後で新受託者との間で精算するべしとしています。
受託者の相続人が「信託財産」に関して言えるのは、「信託財産」の所有者である新受託者に対し、速やかに「信託財産」からの賃料で返済せよとか(これも事実上の催促ができるにすぎません)、立替払い分を精算せよという程度なのです。それだけ、新受託者に誰がなるのかが重要であり、その人選には慎重を期すべきと言えます。
③新受託者は債務を引き継ぐが、法律上は信託財産の範囲でのみ責任を負う
イタ子さんの信託の新しい受託者には、ジュタ子さんがなりました。ジュタ子さんは、自分の個人財産(固有財産)でも責任を負い、返済しなければならないのでしょうか。
信託法は、新受託者は「信託財産」の範囲でのみ責任を負うとしています(76条2項)。ジュタ子は、固有財産では責任を負いません。M銀行と融資の契約をしたのは、ジュタロウであって、ジュタ子ではありません。自分で締結していない契約により責任を負うことはないからです。
相続により、意思や契約と無関係に責任を負うことになる、ジュタロウの相続人とは対照的です。
もっとも、金融機関によっては、融資契約の際に「固有財産でも責任を負うべし」という契約を新受託者候補者に求める場合があります。金融機関によって区々なので注意が必要です。