高齢化社会に心強い「家族信託」には様々なケースが
不動産や預貯金などの財産保有者が、それらの管理・処分を信頼できる家族に任せることができる制度が「家族信託」(民事信託)です。本制度を利用する動機は、年齢を重ねたときに自身で財産の管理をする能力がなくなることを危惧して、というものがほとんどです。
ですが、高齢や健康問題を理由に財産の管理を依頼した側の「委託者」より、管理を任された側である「受託者」が先に没してしまうケースも、存在します。そうした場合に、残された「委託者」、亡くなった「受託者」のきょうだい、配偶者、子どもはどのような対応が求められるのでしょうか。
具体的な事例を見てみましょう。
「受託者」が「委託者」よりも先に急逝した事例
【登場人物】
トラ田イタ子(75歳) 専業主婦 夫が5年前に他界
トラ田ジュタロウ(50歳) メーカー勤務
新(あたらし)ジュタ子(47歳) パート主婦
「え!? ジュタロウが交通事故で亡くなった!?」
――ジュタロウの急死から遡ること1年前。とある郊外の住宅街。
トラ田イタ子(75歳)は、夫に先立たれ、戸建て住宅にひとり暮らしをしています。夫が遺してくれたのは、この自宅の土地建物と預貯金。自宅のローンは夫の退職金で完済しています。夫は、真面目を絵に描いたような人で、投資すら賭け事と捉えるような人でした。
イタ子は、今後の自身の生活について、息子と娘と話し合いました。
息子のトラ田ジュタロウ(50歳)は、「将来、母さんが介護施設に入所することになったら、入所費用は預貯金だけでは賄えないから、この家の売却は避けられない。」
「お母さんにはできるだけ長くこの家に住んでもらいたいけど、いざ売らなければならなくなったときに、母さんに売却手続きができるかどうか心配だ。」と言いました。
娘の新ジュタ子(47歳)は、インターネットで取り寄せたという「家族信託」と書かれたパンフレットを机に広げ、「この制度を使えば、お母さんが認知症になって契約書にサインするのが難しくなっても、子どもが代わりに売却手続きをしてあげられるようになるんですって。」
「兄さんを『受託者』にして、この『家族信託』をしておけば安心なんじゃないかしら?」と提案しました。
そこで、3人は、先のパンフレットを発行している専門業者に問い合わせ、相談してみることに。
業者のサポートを受け、3人で話し合い、イタ子とジュタロウは、自宅の土地建物の管理や売却を目的とした「信託契約書」を結びました。専門業者から紹介された司法書士へ依頼して、登記手続きも併せて済ませました。
晴れて将来の不安が解消され、安心して趣味の映画鑑賞に没頭できると思っていた矢先、イタ子はジュタロウが急逝したとの連絡を受けました。
イタ子は「委託者」かつ「受益者」です。この「家族信託」は、一体どうなってしまうのでしょうか?