なぜ梅毒が急増しているのか?
■性器挿入行為がなくても感染。コンドームをしていても油断大敵
梅毒は、スピロヘータという細菌(Treponema pallidum)によって引き起こされる感染症です。写真1のような形をしています。
梅毒の感染が急増していますが、明確な原因はまだ分かっていません。病気が増えたり減ったりしたとき、疫学研究という研究手法を用いて、その原因を探ることが行われますが、複数の原因が混在していることが多く、なかなか難しいです。
実は梅毒の感染が増加しているのは日本だけではありません。アメリカでも同様の傾向があります。CDC(米国疾病対策予防センター)の疫学研究によると、原因は、薬物使用の増加であると推察されています(1)。しかし、日本で同様の原因であるかは不明です。一方、梅毒は生来、非常に感染性の強い性感染症です。梅毒の皮膚病変にはT. pallidumが大量に存在し、わずか数個のT. pallidumが直接接触するだけで感染が成立します。したがって、性交渉における性器挿入行為がなくても感染し、コンドームをしていても病変を完全に覆えていなければ感染します。さらに梅毒病変においては、痛みがないことがほとんどで症状に気づかれないことが多いです。
これらのことから、一度流行り始めると、加速度的に流行すると考えられます。急増の原因としては、他にも様々な要因が考えられますが、この生来の感染しやすさも影響していると思われます。「気づかないまま、性交渉のわずかな接触でどんどん感染していく」という梅毒の性質に注意しておく必要があります。
梅毒の感染経路は?
■基本は性交渉時の接触だが、胎児への感染も
梅毒皮膚病変と直接接触することで梅毒に感染します。性交渉で触れる場所に皮膚病変があり、それが性交渉で伝播し、また性交渉で触れた場所に病変ができるということを繰り返していくため、性交渉によって感染していきます。病変と触れるだけで感染するため、感染に性器挿入は必須ではなく、コンドームをしていても病変が少しでも露出していれば感染します。また、T. pallidumは胎盤を通過するため、胎児への感染も起こります。
■性交渉以外で感染する可能性は低い
理論的には、梅毒皮膚病変に直接接触してしまえば、感染する可能性がありますが、基本的に、皮膚病変は性交渉を介して、性交渉で触れる場所にできていきます。性交渉以外で感染する可能性を過度に恐れる必要はありません。