新型コロナ第7波、全国で院内クラスターが続出
■7月下旬、ようやく医療従事者の4回目ワクチン接種が認められたが…
2022年7月、筆者が勤務する医療機関において、新型コロナウイルス感染症に関する大規模なクラスターが発生しました。7月12日に最初の感染者が発覚、累積の感染者数は151人(患者62人、職員89人)に上っています。いわゆる第7波において、早い段階で出現した全国的にも大規模なクラスターということで、7月22日には、報道ステーションにおいても、数分間にわたって報道されました。
また、現在、第7波の中で、全国的にも、新型コロナウイルスの感染者が急増しています。8月3日には24万9,000人を超えてピークを記録し、本稿を執筆している8月11日現在でも1日当たりの感染者は24万人と高止まりしています。結果的に、全国で無数に院内感染が発生し、多くの医療者が戦線離脱を余儀なくされています。
このような状況を見るにつけ、悔やまれるのが、第7波の前に医療従事者を対象とした4回目接種が実施されなかったことです。日本政府は、最近になるまで、医療従事者への4回目のワクチン接種を認めていませんでした。しかし、感染の全国的な広がりを受けて、2022年7月22日より、18歳以上の医師や看護師などの医療従事者のほか、高齢者施設や障害者施設などで働く職員を4回目接種の対象としています。
率直に言って、今回の判断は遅きに逸した感が否めません。ただ、医療従事者における4回目接種が進むことで、日々新型コロナウイルスの感染者に晒される医療従事者を守る可能性があります。では、どの程度の効果が見込まれるのでしょうか。
そのような課題に応えるべく、本稿においては、2022年8月2日に、米国医師会雑誌のオンライン版「JAMA Network Open」に掲載されたイスラエルからの報告をご紹介したいと思います。
医療従事者への4回目接種、その効果は?
■4回目接種でブレイクスルー感染のリスクが65%低下…イスラエルの報告
この論文は、イスラエルの医療従事者において、ファイザーが製造販売するBNT162bワクチン(商品名コミナティ)に関して、4回目接種による新型コロナウイルスへの感染(いわゆるブレイクスルー感染)を予防する効果を調査したものです。
結論から言えば、BNT162bワクチンの4回目接種を行った医療従事者においては、新型コロナウイルスへの感染リスクが大幅に低下しました。その結果は、現在の日本にも大いに参考になるでしょう。
では詳細を見ていきます。今回の調査は、2022年1月、イスラエルの11の医療機関が参加して実施されました。イスラエルは、世界に先立って、BNT162bワクチンの接種が実施されてきたことが知られています。たとえば、3回目接種は、2021年8月に開始され、9月までに国民の90%、医療従事者に至っては、95%が接種を終了しています。ただ、そのような状況にもかかわらず、イスラエルにおいては、2021年12月から、オミクロン株の広がりもあり感染が拡大、いわゆる第5波に突入しました。このような背景に基づき、同国においては、医療従事者や高齢者等の4回目接種が開始されたのでした。
調査は、2022年1月2日時点で、過去に一度も新型コロナウイルスへの感染がない医療従事者を対象に、同月31日までに起きた感染を評価しました。その中で、BNT162bワクチンを3回しか接種していない方々と、4回目接種を行い1週間以上経過した方々とで、新型コロナウイルスへの感染率を比較しました。
その結果、4回目の接種を行い、その後1週間の間、新型コロナウイルスへの感染がなかった5,331人の医療従事者において、ブレイクスルー感染の割合は、7%(368人)でした。一方で、3回目接種のみを行った医療従事者2万4,280人(4回目接種を行い、1週間以内に感染した医療従事者を含む)においては、ブレイクスルー感染の割合は20%(4,802人)に上りました。4回目接種によって、ブレイクスルー感染のリスクは65%低下し、これは、医療従事者の背景因子を考慮しても維持されました(44%低下)。
医療従事者はどうやって患者を守り、責任を果たすか
■「重症化リスクは低いから感染しても問題ない」は危険な考え
ここで紹介した調査からも明らかなように、4回目接種は、医療従事者におけるブレイクスルー感染を劇的に低下させる可能性があり、速やかに実施されるべきと言えます。一方で、同じ調査の中で、4回目接種を実施した医療従事者は全体の19%に留まりました。これについては、4回目接種の有効性に対しての疑念やオミクロン株による重症化率の低下などが背景にあったのではと、筆者らは考察しています。
しかし、医療従事者の場合、新型コロナウイルスに感染することは、自身が医療現場から離脱するだけではなく、周囲のスタッフにも接触者を生み出します。その結果、マンパワー不足から患者のケアが疎かになり、患者を危険に晒す可能性があります。その点で、医療従事者においては、特に、感染率は極めて重要なバロメーターであり続けていると言えます。
実際、当院においては、クラスターがもたらした傷跡は小さくありませんでした。感染したスタッフにおいては、数日にわたり38~39度の発熱が出て、隔離期間終了後も全身状態が回復していないという方もいらっしゃいました。そのような方々から聞かれるのは、「インフルエンザより辛かった」という声です。このことから、オミクロン株だから感染しても問題ないという考えは、極めて危険と考えています。
また、ワクチン接種を実施することで、医療従事者において、新型コロナウイルスによる長期的な体調不良(いわゆるLong COVID)が減少したという研究結果も報告されています。今後も長期的にコロナと付き合って行かざるを得ないことを考えると、医療従事者におけるワクチンの重要性は、強調してもし過ぎることはないと考えています。
尾崎 章彦
常磐病院 乳腺外科医
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