インフレ、円安の影響が甚大となり、「貯蓄」から「運用」の時代へと過渡期に突入しつつある日本。そんな日本の経済を動かす「株式会社」の社会的機能と問題点を、鋭い視点で浮き彫りにする書籍『会社法は誰のためにあるのか-人間復興の会社法理』 (上村達男著、岩波書店)を日本経済新聞元編集委員、元論説委員の末村篤がレビューする。

権利と義務が釣り合わない「株式会社」のゆがみ

“株式会社に有限責任社員というヒト(人間)は存在しない。株主とは、株式という責任限定(有限責任)の金融商品(モノ)を買ったヒトである。株主は会社の所有者ではなく、株式の所有者に過ぎない。”

 

上村会社法理論の真髄を簡潔に表現すれば、冒頭のフレーズになる。この規定が、株主=会社の所有者という虚構が生む歪んだ株式会社観・株式会社像を一蹴し、株式会社を人間が産み出しながら人間(社会)と対立する人間疎外状態の呪縛から解き放ち、市民社会に立脚した人間の論理に基づく経営組織体に止揚する、「上村ワールド」(理念・論理体系)のキ-ワ-ドであり第-歩だからだ。

 

その必然的な帰結とも言うべきものが株主の属性に関する所論だ。

 

株主の権利は配当を受けるなどの財産権と経営参加の議決権に大別されるが、前者の財産権はともかく、市民社会における民主主義の投票権(参政権)に準ずる議決権は株式保有比率に単純比例するものではなく、その権利の行使には責任が伴い、人間の論理に基づく資格が問題になる。

 

金を出して株式を買ったから、大株主だからという理由で支配力を振るうことは許されず、人間集団の意思決定に参画するに相応しい者かどうか、株主の属性が問われなければならない。コントラバ-シャルな問題提起だが、株式会社という権利と義務が釣り合わない非倫理的存在を社会が認めるのは、それが社会の役に立つ有益な存在だからである、と考えれば違和感はない。

 

私は、著者の前著『会社法改革-公開株式会社法の構想』(2002年、岩波書店)を現代の『資本論』(K・マルクス著)として読んだ。一般の法律(会社法)解説書とは異なり、現実の社会 ・経済を動かすミク 口経済主体である株式会社のメカニズムから株式会社の本質を捉えた制度論(経済システム論)であり、社会・経済の全体像(市民社会)と整合性が取れた株式会社理論(上村ワ-ルド)に魅了された。

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