娘の心に深く食い込み、人格さえ蝕む母の“毒”――。本記事では、埼玉工業大学心理学科教授の袰岩秀章氏が、「『女には価値がない』と言われて育った」母親とその娘のカウンセリング事例を解説する。
「女には価値がない」と言われ育って…“毒親の酷い虐待”が受け継がれる事情 (※写真はイメージです/PIXTA)

「普通に生きたい」…“時代”の問題か?

聞いた話の内容といい、この母親の態度といい、驚きの連続であった。娘の葛藤は、母のように男性に仕えて男性を操作するということができないことにある。母の言うことはその通りだと思うが、男性は暴力をふるうから怖い。一方で男性は親切にしてくれるから、付き合える。でもセックス目当てのような気もする。女性は自己中心的で仲良くなれない。いつ自分の都合であたしを裏切るかわからないから怖い。

 

〈優しい男性を見つければ解決する問題ですか。ずっと男性に頼って生きていきたいですか。お母さんは、男性に頼るようにも見えるし、自分の生き方を持っているようにも見える。そのように生きていきたいですか〉

 

「母のようには無理です。そうしたくもないです。普通に生きたい。女にも価値はあるんですよねぇ?」

 

〈では、あらためて女性カウンセラーと、女性の普通の生き方を考えて普通に生きる練習をしてみませんか〉

 

むろん、母にも介入しておかねばならない。

 

〈娘さんは普通の生き方をしたいとおっしゃっています。生きる価値のある人間として〉

 

「わたしの生き方は普通ではない?」

 

〈いえ、お母さんの普通と娘さんの普通は違うのだと思います。あなたのような生き方は、あなた一代のものかもしれません〉

 

母親は次のようにつぶやいた。

 

「時代ですかねぇ」

 

“時代”かもしれない。だが、そもそも女に価値がない“時代”が間違っていたのだ。“時代”に翻弄されたといえるかもしれないこの母親も、犠牲者だったのではないだろうか。

 

 

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袰岩 秀章(ほろいわひであき)


Ph.D.、FJGPA、LP、CCP
国際基督教大学で博士(教育学)を取得後、日本女子大学専任カウンセラー(助教授)を経て埼玉工業大学心理学科教授。
日本集団精神療法学会評議員、公認心理師、臨床心理士。30年以上にわたり、カウンセリングルームで外来相談を続けている。