「息子と男兄弟のおかげで女は生きていられる」家庭
女には価値がない、だから娘はお荷物だ。そう言うこの母親も、女性なのだが……。
「このうちでは女の価値はないんですよ。いても無駄なだけ。わたし? わたしは息子らを育てないといけませんからね。息子のおかげでわたしは生きていられるんですよ」
「わたしも母親から、どうして女なんだかと言われて育ちました。男兄弟がいて、母もおんなじことを言っていましたよ、あたしは男の子を育てるためだけにいるんだよって」
「兄と弟ですが、わたしは二人の家来でした。でもね、それが嬉しいんです。女だから家来にしてやるって言われたときは、生まれて初めて女で良かったと思いましたもの」
「家来にしてもらったおかげで、わたしは自分の居場所ができたんですね。まだ小学校に上がる前でしたか。それまでは毎日毎日、いつ自分は棄てられるんだろうって、怯えて暮らしていたんですよ」
この母親自身が、虐待といえる扱いを受けて育った人なのだ。女性は価値がないという家庭の中で疎まれ、怯えて暮らす中で、男兄弟の家来になることで、やっと自分の存在を確かめることができたのだった。それはこの女性の生き方を決定づける出来事となった。すなわち、異性の家来になること、それがこの女性の人生の処し方となったのだ。
家来として遊んでもらう中でこの女性は、性的ないたずらをされたり、万引きをさせられたりしたようだ。しかし性的ないたずらは親の知るところとなり、親にこっぴどく叱られたことで収まった。万引きはお店の人に、これもしたたかに叱られたことで、兄弟から言われても物を盗ることは絶対拒否するようになり、一時的なものとして終わった。しかしこれらの体験もまた、この女性の考え方を形作る大きな要因となった。
「女は男の人に関心を持たれてなんぼだなということがよくわかりました」
「男の人が自分に関心を持ってくれるかどうかを、よく見極めないといけないですね。関心がない人の関心を上手に惹くことも大事ですし、関心を向けてくる人の相手はきちんとしないといけないですよね」
それは媚びというのではないか。この人の人当たりの柔らかさは、ここからきているのかもしれない。話を聞かなければ、愛嬌のある人だ、くらいにしか思わないであろう。
「私がこういうことをわかるようになったのも、兄弟のおかげです。兄や弟が、男の人がどういうものかを教えてくれたんです」
「男って、小さいときから女の裸に興味があるじゃないですか。で、見せてあげたり、触らせてあげると、すごく喜ぶじゃないですか。小さい頃にそれがわかったってのが、大きかったんです。男をどう扱えばいいかってのを、そのとき覚えたんですね」
いつの間にかこの母親の言い方は、男の人、から、男、に変わり、口調も控えめで投げやりな話し方から、自信たっぷりの話し方に変わっていた。
「あたしに関心を持つ男の言うことを聞かせるのは簡単です。でもあたしに関心がない男には、何を言ったってダメなんだから、さっさと見切りをつけないといけませんよね」
この女性の生き方はたくましいと言えるのかもしれない。逆境の中で自分の生き方を見出したのだから。だが、そのことが娘の悲劇につながるとは。本当に人生というのは難しいものだ。