(※写真はイメージです/PIXTA)

一度でも性交渉の経験がある人ならば、性感染症にかかる確率はゼロではありません。定期検査の重要性を考えるために、ここでは性感染症を放置するリスクについて見ていきましょう。TwitterやYouTubeチャンネル「ぽいぽんch」で積極的に情報発信を行う剣木憲文医師(銀座ヒカリクリニック院長)が解説します。

性感染症は誰でも起こりうる

“性病が原因で婚約を破棄されました”

 

これはクリニックの外来で、患者様からしばしば聞く訴えの一つです。初対面の患者様ですから、実際のところ、真相はわからないのですが、「性感染症をきっかけに関係を悪化させてしまった」という事実と、患者自身が大変悔やまれていることに間違いはない、と思うわけです。

 

「あとの祭り」にならぬよう、誰にでも起こりうる性感染症とどのように付き合っていけば良いのか、一緒に考えてみませんか。

最近多いのは、こんな性感染症

ここ十数年で急激に増加している性感染症の一つに「梅毒」が挙げられます。昨今、新型コロナウイルス関連の情報が優先されてきましたが、その陰で梅毒は依然として収束には向いていません。2021年速報値で2018年のピークを越え、7873人と打ち出されました(図表1)。

 

参考:厚生労働省『性感染症報告数(2004年~2020年)』、讀賣新聞オンライン『梅毒感染者、昨年最多の7873人…SNS通じ不特定多数との性交渉が増加か』
[図表1]梅毒患者報告数の推移(国立感染症研究所データによる) 参考:厚生労働省『性感染症報告数(2004年~2020年)』、讀賣新聞オンライン『梅毒感染者、昨年最多の7873人…SNS通じ不特定多数との性交渉が増加か』

 

梅毒の典型的な症状は、不安な性交渉から2、3週間後に陰部に潰瘍ができ、その後、全身に赤い斑点が見られます。感染しているか確認する検査は採血で簡単に判断ができますが、無症状の場合は発見が遅れます。

 

もう一つ、最近注目されてきている性感染症にマイコプラズマ・ジェニタリウムという病原体があります。これは尿道炎、子宮頚管炎の方で、淋菌・クラミジアが陰性と出た方で検出されることが多く、細菌学的構造がクラミジアに似ていることからクラミジアの治療で用いられる抗生剤で治りますが、治りが悪い(耐性菌の存在)のが特徴です。

ただし、無症状の人も少なくない

クラミジアは無症状で保菌していることの多い有名な性感染症の一つです。前述の梅毒やマイコプラズマも同様に無症状例が散見されます。

 

尖圭コンジローマは性器のイボの症状を来たしますが、自覚されていない患者様がしばしばいらっしゃいます。特に女性の性器はその解剖学的構造上、イボの自己診断は大変難しく、クリニックで別の検査をする際に偶然見つかることがあります。

 

男性の淋病は昔から強い尿道痛、多量の膿の症状が有名ですが、その淋菌性尿道炎でさえ9.9%の方が無症状で見つかります(図表2)。一般に、どんな病原体においても、男性の尿道は比較的症状を来たしやすいことが知られており、女性の膣や男女の咽頭に関してはより多くの無症状保菌者様がいらっしゃいます(図表3)。

 

期間:2020年11月~2021年10月 対象:上記期間中、当院で尿検査を受けて淋菌PCR陽性と出た男性患者 出所:銀座ヒカリクリニック
[図表2]淋菌PCR陽性であった男性131名 症状の内訳 期間:2020年11月~2021年10月
対象:上記期間中、当院で尿検査を受けて淋菌PCR陽性と出た男性患者
出所:銀座ヒカリクリニック

 

期間:2020年11月~2021年10月 対象:上記期間中、当院で検査をした方 出所:銀座ヒカリクリニック
[図表3]「無症状」でも「検査陽性」であった方の割合 期間:2020年11月~2021年10月
対象:上記期間中、当院で検査をした方
出所:銀座ヒカリクリニック

放置すれば不妊症につながるリスクも…

性感染症を放置すると、様々なリスクを背負うことになります。たとえば梅毒を放置すると1、2、3期と病期が進行してしまいますし、その間に性交渉をしていたら相手にうつしてしまうこともあります。特に、妊婦に感染させてしまうと胎児に先天梅毒を来たすこともあり、とても危険です。淋病・クラミジア・マイコプラズマ・ウレアプラズマなど子宮頚管部に感染する病原体を放置すれば菌が上行性に進展し、卵管炎、腹膜炎に発展する可能性があり、炎症を繰り返すことで不妊症につながるリスクにもなります。

治療を妨げる危険な思い込み

“のどは症状がないので検査不要です”

 

では“のど”の性感染症はどんな危険なことになるでしょう。のどに感染する病原体は淋病、クラミジア、マイコプラズマ、ウレアプラズマ等があり、のどから病状が悪化することは稀ですが、のどから相手の性器へうつすきっかけとなるリスクがあり、性器の性感染症を完治した後もピンポン感染させてしまう理由の一つとなります。すなわち、のどの検査もしっかりして菌が死滅したことを確認しなければ冒頭のような破局トラブルの原因になってしまう可能性があるのです。

 

“私の彼は、私が初めてだし、風俗に行くような人でもありません”

 

患者様の多くは、自分以上に自分のパートナーのことを信頼しています。パートナーを尊敬しているのはとても素晴らしい恋人関係であると私も思いますが、ことに医学、病気、性感染症においては尊敬の念も美しい恋人関係も検査を受ける妨げにしてはいけません。ピンチなときこそ冷静に、柔軟に考えてみてください。風俗に行く人が自分の恋人に「行ってきました」と言うはずがなく、風俗で働く女性のほとんどが「働いています」とは言いません。元お客様と付き合った女性でさえ「あなたと付き合うことにしたから風俗やめるね」と言って、毎月、定期検査にご来院される女性を私は何人も見てきました。

 

“…ってことは私のパートナーは嘘をついているんですか?

 

この際、誰かが嘘をついていると考えるのは少し待ってみませんか。一番大切なことはあなたやパートナーに病気があるのか検査で明確にすること、結果が陽性であれば治療をすることです。

「完治しない性病」はHIVだけではない

治る性感染症は治すとして、治らない性感染症は少し厄介です。その代表格として、HIVは皆さんもよく知っていると思いますが、実はHIVよりももっと身近で治らない性感染症があります。それは単純ヘルペスウイルス感染症、いわゆる性器ヘルペスです。

 

性器ヘルペスは最初の感染は性交渉を原因としますがその後ウイルスが腰仙髄神経節という場所にとどまり、自身の免疫が落ちてきたころに再発します。症状を抑える抗ウイルス薬はあるのですが、ウイルスを完全に体から排除することができないため、いわゆる完治はしません。相手にうつすリスクもずっと付きまとってきます。

 

しかし、もし性器ヘルペスに感染してしまっても悲観的になる必要はありません。再発しないように、相手にうつさないように上手に付き合っていけば良いのです。

まとめ:性感染症を放置してしまわないために…

今日は、性感染症を放置する危険性について一緒に考えてまいりました。無症状でも定期的に検査を受け、早期発見・早期治療に努め、治らない場合も十分なケアをしていくことが、冒頭のような状況に陥らないための知恵と思います。最後までお付き合いいただきありがとうございました。

 

 

剣木 憲文

ぽいぽんchこと、性感染症内科医ノリ

銀座ヒカリクリニック 院長

※本記事は、オンライン診療対応クリニック/病院の検索サイト『イシャチョク』掲載の記事を転載したものです。