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今は預金でお金が増える時代ではない
――少しお金の正体がわかってきたような気がします。お金の価値は、モノやサービスの値段によって変わるということですね。ん? あれ、ということは……?
渡邊 お、何か気づきました?
――僕が銀行に預けている初任給の価値も、当時とは変わっているということ?
渡邊 ええ、その通りです。もちろん、それは丑久保さんだけの話ではありません。銀行に預金をしておけば安全だと思っている人も多いと思いますが、そんなことはないんです。たしかに、銀行に100万円を預けておけば預金残高は減りませんが、モノやサービスの値段は変化していますからね。物価が上がれば銀行に預けているお金の価値は減ってしまいますし、反対に、物価が下がればお金の価値は増えます。
――じゃあ、物価って上がることのほうが多いから……。
渡邊 はい。残念ながら、お金の価値は減っています。丑久保さんが銀行に預けた初任給の価値は、当時と比べて下がっていると考えられますね。もちろん、最低限の生活費くらいは、預金に置いておいたほうがいいとは思います。しかし、預金残高だけに注目している人は、お金自体に価値があると思っている人なのです。
■定期預金だけでは老後資産は絶対に築けない
――あ、でも銀行預金には利子ってありますよね。たとえば、僕の20万円に年間1%の金利がついてれば、物価の上昇に対抗できませんか?
渡邊 そうですね。一概には言えませんが、丑久保さんが初任給20万円を、その条件で10年間預けていたとしましょう。税引きとかもありますが、だいたい21万6000円くらいにはなります。ただ問題は、今の銀行預金の金利が低いことなんです。1%も金利がある大手銀行なんてありません。
――たしかに。銀行にお金を預けていて、お金が増えたと感じたことはないです。銀行の金利って、昔からこんなに低かったんですか?
渡邊 いいえ、そんなことありません。私は実際に経験したことはないのですが、バブル期の銀行の金利はものすごく高かったんですよ。銀行の定期預金の金利が6%、郵便局の定期貯金の金利は8%もあったのです。
――そんなに高かったんですか! うらやましい時代ですね。今って……。
渡邊 今現在(2021年7月)、大手銀行の定期預金の金利は0.002%です。バブル期の8%と比較すると、4000分の1の金利しかつきません。
――そんな低い金利しかつかないなら、預金でお金が増えるはずないです!
渡邊 ええ、その通りです。私たちの親世代やバブルを経験した人たちは「預金をしときなさい」が口癖でしたが、正直なところ、今の金利で預金をしたとしても「今は預金でお金が増える時代ではない」というのが現実です。金利が高いか低いかで、実際どのくらい私たちの生活に差が出るのかを具体的な数字で比較してみましょう。先ほども話に出ましたが、少し前に、老後2000万円問題が話題になりましたよね?
――はい。安心した老後を送るには「年金プラス貯蓄残高が2000万円くらい必要」と話題になったニュースですね。
渡邊 そうです。もし今現在1000万円の資産があるとして、預金だけで2000万円を準備しようとした場合、8%の金利と0.002%の金利で、どのくらい差が出るのかわかりますか?
――えーっと……。どのくらいかはわかりませんが、けっこうな差が出ます!
渡邊 (い、潔い!)金利が8%の場合は9年で2000万円を準備できるのに対して、金利が0.002%の場合は3万6000年もかかってしまうのです。
――3万6000年!? それって、僕たちが生きている間には、絶対に実現不可能じゃないですか!
渡邊 そうです。預金と投資の違いを簡単に説明すると、今現在の金利水準が続いた場合、生きている間に資産が2倍になることはないのが預金、資産が2倍になる可能性があるのが投資なのです。
渡邊 一慶
ファイナンシャル・プランナー
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