新型コロナ感染拡大のなか、首都圏の新築マンションの平均価格がバブル期の1990年を超え、過去最高となりました。首都圏の不動産はこのまま右肩上がりが続くのでしょうか? 世界に目を向ければ現状のルールや常識を覆すようなさまざまな変化が日々巻き起こってきているようにもみえます。国内でも不動産の価値に影響を及ぼす人口動態に顕著なデータが現れてきました。アフターコロナの不動産投資では「不動産価値」の見極めが重要だといいます。そして富裕層の不動産資産承継にも影響が出ています。不動産事業プロデューサーとして注目され、不動産ビジネスに深い見識をもつオラガ総研株式会社代表取締役の牧野知弘氏がアフターコロナに起きる「不動産価値」の変化について解説します。

不動産投資に重要な「街選び」という視点

ここ数年、国内不動産価格は右肩上がりで推移してきました。コロナ禍においても、東京を中心とした都市部には国内外から投資マネーが集中し、特に新築マンション価格は急上昇しています。

 

問題はこの状態が今後も続くかどうかです。歴史は繰り返すということで、かつての平成バブルやファンドバブルもそうでしたが、値上がりしているからとやみくもに流れに乗ろうとするのは危険です。

 

これからの時代、不動産に対する見極めでは、物件をどう評価するか、あるいは立地をどう選んでいくのかをよく考えることが重要です。私が従来からテーマにしている「不動産の価値」の見極め方を間違ってしまうと、ただバブルに踊ったということになりかねません。大切なことは本当にいい不動産とは何なのかという切り口で、不動産の見方、選び方を考えていくことです。

 

現在の不動産市場を見る際のポイントは、従来以上に外部環境の変化を見据える必要があることです。一つは金融マーケットの動き、具体的には金利の動向です。いま不動産市場には国内外問わず多くの投資マネーが流入しています。マンション価格高騰の背景には、転売を狙った投資家や業者の存在があります。金利が安く、資金が調達しやすいため、売買を繰り返すことによってキャピタルゲインを得ているのです。この動きは今後の金利の動向次第でいきなり縮小する可能性がありますので注意が必要です。

 

外部環境でもう一つ注視すべきは、コロナ禍による人々のビジネススタイル、ライフスタイルの変化です。企業規模などによって差がありますが、コロナ後も在宅勤務、テレワークが一定程度定着するとみられ、今後はオフィス需要が厳しくなっていくことが予想されます。東京都心部では2023年から2025年頃にかけて新築オフィスが続々と完成するため、既存のオフィスとの間でテナントの奪い合いになることはほぼ確実で、オフィスの相場はかなり崩れるのではないかと危惧しています。

 

一方で、多くのビジネスパーソンが自宅とオフィスを行き来するだけの生活スタイルが変化しました。毎日通勤する必要がなくなれば、高いコストで都心に住む必要性が薄れます。この動きはコロナ禍が後押しとなって郊外部に人が拡散する動きが生じています。東京都は昨年、23区において転入者より転出者が多い「転出超」になりました。

 

とはいえ、郊外ならどこでもいいというわけではなく、たとえば神奈川県の湘南エリアや長野県の軽井沢など住環境のよい定番のエリアに需要が集中しています。逆に郊外でもニュータウンに人が戻る動きはほとんど見られません。したがって、不動産投資においても街選びや地域選びが重要になってきています。

「従来型の不動産活用」が危ないと指摘する理由

こうした不動産市場の動きのなかで、私が注目しているのは富裕層の「不動産活用ニーズ」です。個人金融資産が60代以上に偏在していることによって、特に富裕層による相続対策が本格化してきています。そろそろ次世代について考えて、相続対策として不動産をどう活用するのかが今まで以上に大きなテーマになっています。ここで間違った対策をしてしまうと、相続した子どもや孫の次世代に禍根を残しかねないので慎重さが求められます。

 

大事なポイントの一つは、前述したように国内外の投資マネーの流入によって実態以上に不動産価格が上昇していることです。過去の何回かのバブル崩壊と一緒で、金利上昇など、場面が変わると投資に失敗した会社は倒産したり事業縮小したりすることになりますが、個人は破産したり、人生そのものを大きく狂わせることになります。不動産投資市場に個人で参加しているということをしっかり認識し、その荒波の影響を極力避けられる相続対策を検討することが重要です。

 

また、コロナ禍による地域格差が拡大しています。都心から郊外に生活拠点を移す動きが増えていますが、人気エリアとそうでない地域が生まれています。郊外などのアパート投資で相続対策をされた方が亡くなり、子どもや孫世代になって、「借入金が払えない」とか、「入居者が集まらない」といった事象が起こり始めています。

 

目の前の節税ということだけを考えた不動産投資を行うと、結局何のために相続対策をしたのかわからないということになりかねません。価値の不確かな不動産を多額の借金をしてむやみに買ったり、無計画にアパートをつくったりしてしまうと、目の前の相続対策として効果があったとしてものちのち子孫に災厄をおよぼしかねないのです。

 

相続対策で重要なポイントは、目先の税額の縮小だけが目的化してしまわないことです。数字だけを見て、評価額が圧縮されて税金が安くなるということで、不動産そのものをよく見ずに購入してしまったり、節税効果を高めようとするあまり無理な借り入れを起こしたりしてしまうという事象が多く見られます。

 

金利水準が非常に低いため資金調達環境がよいのは確かですが、逆に運用利回りも低くなっています。運用利回りが低いということは、リスクに対する耐性が弱いということなので、より物件の選別をしっかり行わないと、いざ金利が上がる、また要求利回りが高くなるなど金融環境を含めて局面が変わってしまった時、物件の価値が急落します。このときに無理にレバレッジをかけ借入金を起こしていると、あっという間に債務超過に陥ります。これは非常によく見られる事例ですので注意が必要です。

 

一方で現在、多くの不動産を所有している方は、その順位付けをして、不要な不動産をどう処分していくかを考えていく必要があります。いまは不動産価格が値上がりしているから所有し続けていれば、まだまだ上がるのではないかと、従来の経済感覚をお持ちだと危険です。今後はさらに上がる不動産と、逆に価値をまったく生み出せなくなる不動産が出てきます。そこを見極めて、いらない不動産は売却し、よりよい資産に組み替えていくことが大切になります。

発展する街と沈んでいく街の二極化

では、「不動産の価値」の観点で着目すべきポイントは何か。総じていうと不動産の「利用価値」です。もちろん不動産は資産価値、財産価値を持っていますが、いままで以上に不動産がきちんと利用できるか否かという点に価値軸が移ってくると思います。先ほどのようにオフィスというハコが従来通りの価値を発揮できなくなれば、賃料がどんどん下がっていくことになります。そうすると当然オフィス街の地価の見直しが起きます。

 

住宅でも湘南エリアは、以前はどちらかというと価値が下がっていましたが、リモートワークが常態化し、居住環境のよさから復活しました。また、ニュータウンの多くは人が戻っていないと述べましたが、住むためのハコがあるだけで、住んでも楽しくない、魅力がないと判断されると、郊外でも人は戻って来ません。価値はどんどん下がっていくでしょう。まさに街やエリアによって復活する街と、逆に悪化が進む街とに二極化するので、その見極めが大切になります。

 

これは郊外に限った話ではなく、東京都内の不動産でも同様です。たとえば高台にあるなど地盤のよさや、街やエリアの雰囲気、文化、歴史、商業などさまざまな角度から見直される街、発展する街、そして沈んでいく街の明暗がはっきりしてくるでしょう。

 

これらの動きは2030年までの時間軸の中で注目すべき点です。未来というと20~30年先で、自分たちは関係ないというように考えがちですが、2030年までの変化を見通すと、あと8年なので相続を考えている富裕層にとっては非常に大事な視点となります。

 

【オンラインセミナーを開催します】
2022年4月9日(土)13:00より、野村不動産ソリューションズ主催「徹底検証!アフターコロナに『伸びる不動産』『沈む不動産』」(オンライン)を開催します。これからの不動産市況の動向、富裕層の不動産資産承継の課題など、アフターコロナに起きる「不動産価値」の変化について、オラガ総研株式会社代表取締役の牧野知弘氏と不動産売買の最前線にいる野村不動産ソリューションズの社員との対談形式で紐解いていきます。

 

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牧野知弘
オラガ総研代表取締役

取材・構成/田之上 信
※本インタビューは、2022年2月3日に収録したものです。

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