「ピロリ菌除菌」と「内視鏡技術」が胃がん予防に有用
実はピロリ菌ががんの原因であると認識され、対策が取られ始めたのはつい最近のことです。ピロリ菌は1982年に発見され、研究によって胃炎や胃・十二指腸潰瘍の原因であることが確かめられました。発見者のロビン・ウォーレンとバリー・マーシャルは2005年にノーベル生理医学賞を受賞しています。
ピロリ菌が胃がんのリスクになることは判明していたものの、実際にピロリ菌を退治・除菌することが胃がんの発生を抑えるかどうかは分からなかったため、まずは胃潰瘍・十二指腸潰瘍の場合にピロリ菌を除菌することが現場に取り入れられました。これは日本では2000年のことです。
その後日本から発信された、“早期の胃がんを内視鏡で治療した人にピロリ菌の除菌を行うと、その後胃がんが発生する割合を約3分の1に抑えられる”とした研究を足がかりに、ピロリ菌除菌による胃がんの予防が試みられ始めました。2013年からは、日本ではピロリ菌感染症と診断された場合には条件なくピロリ菌除菌が受けられるようになりました。
■実際、「胃がんで死亡する日本人」は大きく減少
2021年に日本の研究機関から発表された論文によると、2013年から2019年に行われたピロリ菌除菌によって、将来的に約28万人の胃がんの発生が予防され、6万5千人の胃がんの死亡を防ぐだろうと推定されています。また、実は日本人の胃がんはすでに減少に転じています。がん登録データによると1970年代から年間で5万人前後が胃がんで亡くなっていましたが、2019年には約4万2千人と減少しています。内視鏡の精度の向上によって早期の段階で発見される胃がんが増えたことや、手術成績の向上などが考えられます。
最近では、胃がんは内視鏡治療が可能な状態で発見されれば、9割以上の人が完治することが可能になっています。ピロリ菌除菌をした方や、慢性胃炎がある方は定期的な内視鏡検査を受けることで胃がんによって命を落とすリスクをしっかりと下げられるワケです。
さらに最近では、全国のいくつかの自治体で、さらに若い世代、中高生のピロリ菌検査と除菌治療が取り組まれています。若い世代で除菌を行うことの効果ははっきりと分かっていないことも多いですが、2021年に国際誌に発表された研究では日本を含む9ヵ国で青少年に対してピロリ菌の検診の取り組みが行われていました。胃炎が進行すると除菌をしても胃がんを発症するリスクが高く残るために、早い段階で網羅的に除菌を行うことが将来の胃がんの発生を予防できるという観点です。中学生2年生のピロリ菌検診を行なっている横須賀市医師会の水野靖大医師は、今の検診制度の対象となっていない若い世代にも検診の機会を広げていきたいと取り組まれています。