娘は中学に入ると自傷行為をするように
娘は懸命に母親と自分を守ろうと、父親の言うことを聞き、祖父母の機嫌を取って暮らしていたようである。しかし娘の心の安定は、長くは保たれなかった。小学校高学年になるとうつ気分が強くなって学校を休みがちとなり、中学に入ると自傷行為が増えるようになった。
夫や祖父母たちからすれば、早くから大人びてあまり可愛げがなくなったこの娘に対して、どう接していいかわからず、結局はれ物に触るような態度を取っていた。その態度は、娘にすれば、ああやはりこの人たちは、ではなかっただろうか。
娘は、自分の存在を根底から揺るがしたのが母親であることも気づかないまま、その母親以外に頼る人を持たずに苦悶していたのである。
娘のうつと自傷がひどくなったので母親は受診をして、こちらを紹介されてきた。娘のカウンセリングだけでなく、母親の面接も並行して行った。母親は、初めはのらりくらりとした話しかしなかった。だが、次第に気を許して、ぽつりぽつりと娘の育て方を語るようになった。
誰かに話したかったのだろうか、次第にその口調は熱を帯びて、語る内容も、どう夫や両親たちに仕返しをしたかという自慢めいた話に変わっていった。
夫、祖父母との面談も行ったが、母親を責めるばかりで、話は深まらなかった。そして娘の不調を母親のせいにして、ただなじるだけの夫や祖父母相手に、とうとうこの母親は思い切った手にうって出た。離婚である。
「娘がうつになって、離婚することにして、初めてわたしはこの子が自分の娘だという気がしました。自分からは何もできずにわたしに頼りっきりですが、それでいいんです。ある意味わたしは、自分の娘を取り戻したんですから」
「わたしの言うことを聞くし、わたしの言ったことはできるんです。勤めから帰ればご飯はたけているし、掃除もしてある。娘が自傷したり、高いところから飛び降りそうになったりさえしなければ、もう何の問題もないんです」