離婚後も娘の支配をつづける母親
この母親は娘に憎悪を向け、支配し、復讐した。しかし離婚した今、いつまでそれを続けるのか。離婚ですら自分のせいだと苦しむ娘を、どこまで追い込み続けるのか。
〈お嬢さんをロボットのように、自分の思いのままに操ることはできません。お嬢さんに苦しみを植え付けたのはお母さん自身ですから。それを取り除くとしたら、それができるとしたら、それはお母さんだけじゃないでしょうか〉
〈お嬢さんはあなたに、何も悪いことはしていません。あなたが何もしないで、このままお嬢さんが元気になると思いますか。復讐は、ここまでではありませんか〉
「どうしろというんですか! 娘に夫や両親は正しいと言えとでもいうんですか!」
〈苦労させたね、お母さんはおまえがいたおかげでやってこれたんだよ、離婚はおまえのせいじゃないよ、そう言って差し上げられませんか、本当のことですよね。そして……〉
「そんなこと言えるわけないじゃないですか!」
かまわず私は続けた。
〈いえ、多分言えると思います。そして、あの人たちはおまえのことを嫌いじゃないんだよ、と言って差し上げてください。これも本当のことですよね。そして、みんなはおまえのことを嫌っているわけじゃないんだ、ただ可愛がり方がわからない人たちだったんだよ、苦しみを植え付けたのはお母さん自身ですから。それを取り除くとしたら、それができるとしたら、それはお母さんだけじゃないでしょうか〉
〈あなたに忠実な娘に、どうぞ、そう言って差し上げてくださいませんか〉
母親は黙り込み、うなだれたままだった。
その後この毒親はカウンセリングに現れなかった。彼女が娘に何をどう伝えたかはわからない。だが、しばらくして娘がカウンセリングルームを訪れた。顔色は血色に満ちて、姿勢はすっかりのびのびとしたものになっていた。
姿を見せなくなった毒親…。やがて娘におとずれた変化
「このところ母が変わって、わたしもだんだん元気になってきました」
「母は……、前より優しいっていうか? 前からも優しくはしてくれていたんですけど、どこか距離を感じていたのが、なくなってきたみたいな」
「親身になったみたいな? 変な言い方ですよね、母親に対して親身なんて。でも、前は何でも命令するようなところがありましたが、今はちゃんと頼んでくれるっていうのかな、こちらの気持ちを考えてくれるというんでしょうか……」
とりあえず高校を卒業したいなと思うので、アルバイトしながら定時制高校行きます。その先のことは考えていません、とのことであった。
母親は自分にされた仕打ちをこの子に向けていたのだろうか。恐ろしい仕打ちである。それをこの母親にさせたのは誰か。そのことも、考えれば恐ろしいことである。誰もそんな仕打ちをしていると思ってやっていた人はいないのだろうから。
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袰岩 秀章(ほろいわひであき)
Ph.D.、FJGPA、LP、CCP
国際基督教大学で博士(教育学)を取得後、日本女子大学専任カウンセラー(助教授)を経て埼玉工業大学心理学科教授。
日本集団精神療法学会評議員、公認心理師、臨床心理士。30年以上にわたり、カウンセリングルームで外来相談を続けている。