「医師として働く」の壮絶…「医師=安泰の職業」を覆すとんでもない事実 (※写真はイメージです/PIXTA)

医師といえば、世間では「安泰の職業」の筆頭でしょう。ところがLIGHT CLINIC副院長・吹田春佳医師は「医師=安泰の職業」という見方に疑問を呈し、医師は「なるまで」より「なってから」のほうが壮絶だと語ります。熾烈な医学部受験を勝ち抜いた先に待ち受ける、医師人生のリアルとは?

医師は「なるまで」より「なってから」が壮絶

題名を読むと、私からすると何を当然のとこをさも驚くことのように書いているのかと不思議に思う。学生時代は勉強に打ち込んだ。学校が終わり部活後に眠たい目をこすり日々の予習復習をする、土日も部活後に塾に通う、受験生になると睡眠、食事、お風呂、トイレの時間を除いて1日何時間勉強できるかと考える。12時間は勉強時間を確保できる、13時間はどうやって確保するか。小学生の頃からそんな生活が続いた。学生時代に友達と遊んだ記憶はあまりない。

 

せっかくの青春時代がもったいない、医学部受験は大変だ、と思うだろうか? スポーツ選手だって何だって、人よりできるようになろうと思うなら、それだけの熱意を持って時間を費やす必要がある。どの業界でも同じではないだろうか。甲子園で華々しい成績を残す生徒はきっと友達と遊ぶ時間なんてないくらい野球に打ち込んでいると思う。打ち込む対象が違うだけだ。

 

甲子園で日本中を沸かせた選手でもプロになってからが本当の勝負、それと同じで医師も医師になってからが勝負だ。

私生活を潰して働き続けるのが「当然」の職業

学生時代の勉強なんて、何の責任もない。成績が悪くても、自分や自分の周囲が落ち込むだけで、次回頑張れば良い。しかし、人の命がかかるとそうはいかない。1回の失敗が、気の緩みが、技術不足が、今までの自分の積み重ねが、人の生死を左右する。勉強は自分の集中力が切れたら休憩すればいいだけの話だが、死にそうな患者を前に、今日は私は休みだから、ちょっと疲れたから、なんて言いわけは通用しない。

 

医学部を卒業するとまず研修医として社会に出る。もちろんどこで働くかで仕事の大変さは異なるが、しっかり研修ができる病院ほど当然激務だし、そんな研修先ほど人気で給与は安かったりする。しっかりと知識や技術を身につけられる病院で働き経験を積むことが将来の患者さんのため、また自己研鑽のためと激務に耐える。当然のことだが、時間外に医学の勉強をすることは当たり前で、それに対して給与など出るはずがない。

 

そのままたいていの医師は医局に入局して大学病院での勤務が始まる。大学病院の給料だけでは安すぎるのでバイトに行き生計を立てる。大学で役職に就きたければ大学院に行かなくてはならないが、学生生活の間はバイトで収入を工面する。医局の勉強会や研究活動、論文執筆、学会発表などは当然無給でやり続けなければならない。

 

大学に入局したての頃、教授からよく言われたことだが、たとえば夕方に緊急で患者が搬送されてきた、まだ若手の私たちは勉強させてもらっているのだから、進んで無給でも時間外も患者対応をする姿勢があって当然だと。患者さんのために知識を身につけ、技術を身につけ、どんなに経験を重ねても初めて出会う症例がある。定時で帰りますなど、自分が成長する機会を自ら放棄します、と言っているようなものだ。大学で勤務を続けるとこんな生活が続く。

 

教授になる人は本当に朝も夜も受験勉強で勉強したのとは比べものにならないくらい学問に向き合っている。世界で最新の論文は英文になるので、毎日英文で文献を読みあさり、自分の講演や執筆活動に加えて、後輩たちの研究の監修も行う。教授という地位や名誉はあっても、研究活動に費やす時間を考えたら給与は決して良いとは言えない。

 

では市中病院はどうか。市中病院も大学病院の医局から医師がローテートしていることも多いが、自分は大学や研究には向かないと思って大学から市中病院に出る医師も当然いる。それでも労働環境は変わらない。

 

基本的に医師に看護師のような「夜勤」という制度はない。月から金まで日中働くのにプラスして、夜や土日の当直にはいる。よほど人手が充足していていれば、当直明けが休みになることもあるが、当直明けの翌日もそのまま1日仕事して帰る医師も多い。

 

1日24時間365日、年末年始だろうがあちこちで休日を潰して働く医師がいるから救急対応ができる。やはり医師とは私生活を潰して働き続けなくてはならない。割の良い職業ではないように思う。

本当に「医師=安泰の職業」と言えるか?

給与だけを考えれば確かに医師は安泰だ。どんなに能力が低くて仕事ができない人間でも医師というだけでそこそこの給与が担保される。

 

このカラクリは何か。医師は保険診療をしている限り、国が定める保険点数に給与が依存することにある。いくら研究活動を行い、自己研鑽に励み、博学な医師が診療に当たっても、言葉は悪いがいわゆる“ヤブ医者”が診療に当たっても、同じ虫垂炎の治療をすれば同じ保険点数なのである。

 

頑張っても頑張らなくても大して給与は変わらない。それでも当然の義務として勉学に励み日常臨床に従事する医師が大半だからこそ日本の医療は成り立っている。保険診療では基本的に国が認める治療しかできない。

 

一般的に勤務医より開業医のほうが平均年収は高いと言われているが、開業医になると経営者の視点が入ってくる。流行ればもちろん給与は高くなるが、閑古鳥が鳴くようなクリニックでは潰れざるを得ない。予防医学や、美容医療など、保険診療の枠を超え自費診療になると、給与に関しては医師ではなく完全に経営者となる。給与が良いか悪いかはその経営者の努力による。企業努力で売り上げが上がるのと同じ、資本主義の世界になるので、大きく稼ぐこともできるようになるが、安泰ではなくなる。

 

私は他の業種は知らないので想像でしかないが、ラクして稼ぐ、ラクして名誉を手にする、ラクして地位につくなんてことはどんな業種でもないように思う。

 

学生時代は勉強が大して得意ではない人間も含めた中で成績が良ければよかったのが、医師になるともともと学力が高く、努力できる人間が集まっている中で業績を残さなければならない。それは壮絶な道のりだが、やりがいと面白さに満ち溢れている。

 

医師免許さえあれば、今の日本で職に困ることはない、しかし10年後はどうなるか分からない。国が医師の定員を増やす、増大する医療費を懸念し保険点数を下げると、能力の低い医師から淘汰されていく。将来も必ず安泰とは言い切れない。

 

地位を手にすること、名誉を手にすること、お金を稼ぐこと、社会を変えること、どれも医師でなくても達成可能なことだが、医師免許があると少し可能性が広がる。医師になってから何を成し遂げるか、それが重要だ。野心に溢れ、日本の医療を支える志のある人にぜひとも医学部受験を目指してもらいたいと思う。

 

 

吹田 春佳

LIGHT CLINIC 副院長

LIGHT CLINIC 副院長 

幼少期より人の命の大切さを考え医師を目指す。金沢大学医学部を卒業後、地元の神戸大学に入局し、手術室や集中治療室で超急性期の患者と向き合い、全身管理に努める。オーストラリアのAustin病院に留学するなど見聞を広め、常に死と隣合わせの現場で医療に従事する中で、急性期治療の限界と、予防医学の大切さを思うようになる。帰国後は、肥満患者の減量手術のチームに参加し、肥満改善のチーム医療を学ぶ。その後、国立循環器病研究センターでの勤務を経て、30年、50年先の健康を見据えた肥満治療普及を目指してダイエット専門クリニックを立ち上げる。

【医療ダイエット専門クリニック:LIGHT CLINIC(https://light-clinic.co.jp/)

著者紹介

連載現役ドクターが明かす「医師の実情」

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